ぶるぶるぶるぶる

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 洋一は昔から弱虫だった。  保育所時代は、毎朝泣きべそをかいた。車に乗せられて保育所まで連れられてゆく間じゅう、ずっとぶるぶるぶるぶる震えながら泣いていた。鼻炎ぎみだったので、涙よりも鼻水のほうが多かった。だらだらだらだら鼻水が流れて顔が濡れ、滴が服に垂れて、いつだって洋一の服の前はべとべとだった。  そうして保育所に置き去りにされる。先生も体裁上、お母さんから洋一を預かる時は側にいるが、毎回あんまりにもぶるぶるぶるぶる震えられて、まるで敵の巣窟に来たかのような警戒ぶりだったので、先生側も嫌になっていた。お母さんが玄関を出て、車に乗る頃にはもう既に、先生はさっさと部屋に入り、朗らかに楽しそうに遊んでいる子供たちの様子を見守っていた。ぶるぶるぶるぶる震えながら、だらだらだらだら鼻を垂れる、弱虫で汚っこい洋一は、年下の子供たちが走り回る廊下に突っ立って、どうしていいか分からなくて、家を出る時よりも、保育所に入った時よりももっと怖くなって、更に震えて泣くのだった。  洋一の弱虫ぶりは保育所を出る時まで変わらなかった。  小学校に入学したら、朝の登校時から信じられないほどの弱虫ぶりを発揮した。  嫌だ嫌だと柱にしがみつく洋一を、お母さんが全力でひっぺがし、ぶるぶるぶるぶる震える洋一の顔を見て笑いたいのを堪えながら、「ほらいけ」と、外に突き飛ばした。  そこには登校班の子供たちが白けた顔で待っていて、うんざりと洋一を眺めた。そうして、ぶるぶるぶるぶる震えながら洋一は、最後尾を泣きながら歩いた。  登校班では誰からも相手にされないだけで済んだが、学校についたら次は、クラスメイトに面白がられた。はなたれのぶるぶるぶるぶると言われると、もうどうしようもなくなって、輪郭がぼやけるほどの勢いで、ぶるぶるぶるぶる震えて泣いた。その泣き方もまた、がくがくがくがく顎を細かく震わすような弱虫ぶりで、男の子も女の子も、果てには先生までも、こらえきれずに噴き出す始末なのだった。  さて、そんな洋一だが、ずいぶん昔から、親戚の年寄りどもからは「お前がふるえているうちが平和」と言い聞かされてきた。  どこに出されても怖くて怖くて警戒して、ぶるぶるぶるぶる震えっぱなしの洋一である。盆暮れ正月、法事などの時に親戚のうちに行った時ですら、怖くて怖くてぶるぶるぶるぶる震えて泣いた。親戚の子供たちからも呆れられ、はなたれぶるぶるを笑われ、相手にされなかった。仲間外れにされて、更にぶるぶるぶるぶる震えて泣く洋一を見て、年寄りたちは「いい、それでいい、いい子だ」と愛おし気に言った。
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