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洋一が、弱虫である間は、世界が平和。
洋一よ、弱虫であれ。
親戚の老人たちが言っていた、あの言葉。
お母さんの言葉。
僕が弱虫であれば平和って、どういう意味なんだろう。
ある日、洋一は魔王集団から背中を蹴られて学校前の道路のドブに顔をつっこんだ。
その様子が面白かったので、魔王集団はげらげらげらげら笑った。
口の中に、くさい泥が流れ込んだ時、一瞬、洋一のぶるぶるぶるぶるした震えが止まった。その瞬間、世界が身震いしたような錯覚を覚えた。
でも、そんなふうに感じたのは洋一だけだったらしく、通行人たちも、横断歩道前に立っている民生委員のおじさんも、ヤンキー魔王たちも、なにも変わらず馬鹿にして洋一を眺めていた。
その日の夜、洋一は夢の中で、ずっと、自分が弱虫であることを考え続けていた。
僕が弱虫なら世界が平和。
僕が弱虫だから、世界が平和。
平和。みんなの幸せ。けらけらけらけら笑いながら保育所で楽しく過ごすみんな。うふうふうふうふ内緒話をしながら笑顔の子たち。いろいろな場面が頭に浮かぶと、寝ながら洋一は、うんうんうんうん熱病にうなされるように苦しんだのだった。
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