バレンタインデーのルール

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バレンタインデーのルール

「聖、これを受け取ってくれないか?」  バレンタインデー当日。俺は高校入学時から温めてきた想いを、隣のクラスの三嶋聖に伝えるために、まずはチョコレートを差し出した。 「は?……え、何これ」  聖のリアクションの冷たさに落ち込みかけるが、俺は自分を奮い立たせ、想いをぶつける。 「入学した時から、好きでした!俺と、つき、付き合っ……てください!!」  噛まずに何とか言い終え、勢いよく頭を下げる。周囲から野次馬の声が聞こえるが、構うものか。  今の俺には、聖しかいない。聖の言葉しか、聞かな……。 「ふはっ」  けれど、待ち望んだ当の本人の反応は、望んだ言葉ではなく、馬鹿にするような笑いだった。 「え?聖……」 「俺に?男の、お前がチョコ?しかも、聖って馴れ馴れしいな。俺が一度、気まぐれで助けたから好きになったって?お前って単純だな」 「っ……」  入学式の時、緊張のあまり胃痛で倒れた俺を、聖は支えながら保健室へ連れて行ってくれた。あれは本当にありがたかったし、純粋な好意でしてくれたことだと思っていた。 「俺はな、入学式さぼりたかっただけ。そんな時にたまたまお前が倒れてくれたから、ラッキーだと思って……って、おい」  俺はそれ以上聞いていられずに、チョコレートを持ったまま背を向けて走り出した。  がらがらと、俺の中で今まで積み上げてきた聖への想いが崩れ、この雪のように真っ白で、何もなくっていくのが悲しかった。  悲しくて、悔しくて、人気のない校舎裏に辿り着いた俺は堪えきれずに涙を流した。泣いても泣いても、気持ちが晴れないせいか、かえって止まらなくなってきた時だった。
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