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翌日、俺は視線を浴びながらも、周りの目は綺麗に無視して生徒会室へ向かった。
星の姿はないーーとは思っていたが、星の姿はちゃんとあり、修太郎と何やら話していた。その表情に笑みは浮かんでいるが、俺が見たいような太陽のような笑顔ではなく、どこか影が差している。
「ということで、修太郎。後は任せ……」
話し終えた星が、俺の姿に気がついて口を噤む。その目は、僅かに驚きの色を灯していた。
「星さん、おはようございます」
「お前、その髪……」
「切って、ワックスかけました。どうですか?」
「どう、って……」
俺が昨日兄に頼んだのは、このことだ。星を助けるなら、まず見た目から整えようと思い、重たい印象を与えていた髪をばっさり切ってもらい、イメージチェンジした。
兄は一時期、美容師を目指していたことがあり、こういうことは得意だった。ただ、何で急に?というリアクションはされたけど。
「……」
星は僅かに頬を染め、目を逸らした後、俺を睨むように見た。
「別人みてえ。俺は送辞の原稿見ないから、後は修太郎に見て……」
「逃げんのかよ」
「は?」
「逃げんのかよっつってんだよ」
俺が乱暴な口調で返したからか、それとも星に負けない目つきで睨み返したからか、星は僅かに怯んだ顔をした。
「……別に。逃げるとかじゃ」
「昨日、あんたの話を聞いて、俺はめちゃめちゃ考えた。イライラしたし、ムカついた。でもそれは、あんたがそんな理由で俺を助けたからとか、そんなんじゃねえ。お前に好きになってもらう資格はないってなんだよ。あんた、俺のこと好きじゃん」
「はあ?」
「昨日、あんたと同じ台詞呟いてみて、その台詞は好きじゃなきゃ出てこないって気づいたんだよ。好きだけど、相手に遠慮とか、気遣いとか、ごちゃごちゃしたこと考えて出てくる台詞だって」
「ごちゃごちゃって何だよ。俺は別にお前が好きとか、そんなんじゃ」
「好きじゃなくてもいい」
「?」
「好きじゃなくてもいいから、そんな傷ついて、歪んだ笑顔、見せないで下さい」
「……っ」
俺は滲みそうになった涙を拭い、星の隣に立つ修太郎を睨み据える。
「星さんが、こいつのせいで傷ついているのなら、俺はこいつを殴る。こいつが今も好きなら、俺は身を引くし、どんな手を使ってでも二人がくっつくように仕向ける。だから、せめて笑顔を見せて下さい。嘘じゃなく、本も……」
終わりまで口にする前に、笑い声が聞こえて言葉を止める。
星が笑っていた。目に浮かんだ涙は、楽しくて流したものではないかもしれないが、本物の笑顔だった。
「お前……流夜、最高」
俺が笑い返せば、星は俺を抱き締めた。
そして、耳元で、蚊の鳴くような声で囁かれ、俺はぼっと顔を赤らめた。
「……今の俺が好きなのは、修太郎じゃなく、流夜だから。殴るとかくっつけるとか、しなくていい」
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