バレンタインデーのルール

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「ん〜、誰だ?めそめそ泣いてやがるのは」  頭上から声がしたことに驚いて見上げれば、木の上に見覚えのある男子生徒がいる。 「え?あなたは」  太い木の枝に寝そべっていた少年が、するっと木の下に降りてくる。  遠目から見ても美形だと思ったが、間近で見ると目がやられるくらい眩しい容姿をしていた。  すらりと伸びた手足と、八頭身はありそうなぐらいの小さな頭。シャープな骨格に、美しく整った眉と、ギラギラと音がしそうなほどの強い眼光を放つアーモンド型の目。  どこかで、人間の顔は左右対称なほど綺麗だと聞いたことがあるが、目の前の少年はまさにそれを体現していた。  人間、あまりに格の違う相手を前にすると身動きが取れなくなるのだと実感した。俺はアホっぽく口を半開きにして、少年を見ていることしかできない。  そんな俺を馬鹿にするでもなく、少年は近づいてくると、俺の頬を突いてにっと笑った。その笑みはあまりに無邪気で、悪意の意味さえ知らない幼子のようで。  微笑ましいような、何ともいえないむず痒い気持ちを持て余す俺をよそに、少年は凛と響く声を発した。 「泣き止んだな。良かった良かった」 「え?あ、えっと、ありがとう?」  思わず礼を伝えれば、少年は驚くような台詞を続けた。 「お前を泣かしたやつはどいつ?俺が今からボコボコにしてやるよ」 「ええ!?ボコボコ??」 「そ!ほらほら、早く早く」  まるで楽しい遊びでも始めるようににこにこと急かされ、俺は聞き間違えたのかと思い、するっと答えてしまう。 「三嶋、聖」 「なるほどな。よし、今から殴りに行ってくる」 「え!?ちょっ……」  慌てて少年の腕を掴めば、少年は不思議そうな顔で俺を見る。まるで、俺のほうが間違ったことをしている気になった。 「あの、流石に殴るのはちょっと……」 「ふうん、そうか。……まあ、ついて来なって」  少年は少し考える素振りをした後、俺を手招きする。俺は招かれるままに後をついて行きながら、あ、と思う。そこまでガタイがいいとかではないが、少年の背中は、なぜか海よりも広く見えた。  大丈夫だ。  俺は不思議な安心感に包まれ、先ほどまで抱いていた絶望感が波が引いていくように薄れていくのを感じた。  単純かもしれない。けれど、大丈夫だ。  根拠もなくそう思った瞬間だった。  
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