副会長の座

1/3
前へ
/12ページ
次へ

副会長の座

「……はあ」  昨日は、いろいろあったな。  バレンタインデーの翌日、俺は授業を受けながら、校庭を眺めていた。校庭では、隣のクラスの体育の授業があっていて、聖が誰よりも早く100メートルを走り抜けている姿があった。  昨日あんなことがあった後とはいえ、すぐに気持ちが変わるかというと、そう簡単なことではなかった。  幾分冷めはしたし、今までのように綺麗な想いのままではないが、もやもやとした何とも言い難い想いとともに、好きだという気持ちが居座っている。  いい加減、前を向かないといけないのにな。  俺が再び溜息をついた、その時だった。 「全校生徒のみんな、授業中に悪いな。これから体育館に集まってくれ。俺からみんなに話がある」  そんな放送があり、クラスメイトがざわめく中、俺はわくわくした気持ちになってきて、思わず口元に笑みを浮かべる。  会長。  お礼を伝えなきゃいけないと思い、準備したものがあるが、休憩時間に星を見つけることができず、渡せずじまいだ。  集会の後にでも渡そう。  俺は机の横にかけていた紙袋を手に取り、流れに従ってクラスメイトと共に廊下に出て並ぶ。 「それ何?」  俺の後ろに並んだ仁科裕翔が、興味深そうに紙袋を見ながら訊いてくる。 「会長に」  それだけ言うと、裕翔は合点がいった顔をする。 「ああ。昨日の」 「もしかして、噂になってる?」 「まあ、あの会長のことだしな」  裕翔の台詞に、俺も星の外見を思い出し、すぐに納得がいった。 「カッコいいもんな」  思わず零した台詞に、自分の中で照れが生まれる。  何照れてるんだ、俺は。  一人で動揺を振り払おうと頭を振ると、裕翔はそれに気づかないまま、うんうんと頷いた。 「見た目だけじゃなく、存在自体がカリスマっていうか。とにかくカッコいいよな。嫉妬する気も起きねえ」 「そう。そうだよな。とにかくカッコいい」  大げさなほどに裕翔に同意しながら、自分の中に生じた気持ちを持て余していると、背後からぽん、と肩を叩かれた。 「誰がカッコいいだって?」 「え?それはかい……」  振り向きながら、会話に加わってきた誰かに言葉を返そうとしたのだが、その姿を見て思考が停止した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加