副会長の座

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「よ、元気そうじゃん」 「か、かい……」  話題の人物本人が立っていて、俺は金魚のように口をパクパクさせる。 「よかった、もう泣いてないな。次はお前の笑った顔が見てえな」  頭をくしゃくしゃと撫でながらそんなことを言われ、俺はぼうっとしてしまった。 「流夜、熱でもあるのか?顔が赤いぞ」 「え?えっと、これは」  不思議そうに見つめられ、どう答えようか焦っていると、星の後ろから強面の大男がにゅっと現れ、星の肩を叩く。 「遠崎」 「ああ、分かってる。行くって」  面倒くさそうに大男に言うと、星がまた俺の頭をひと撫でし、立ち去ろうとする。 「あ、会長!」  俺は呪縛から解かれると、紙袋の存在を思い出し、慌てて呼び止める。 「ん?」 「こ、これを」 「ん?おお、これはチョコか?」  星は驚きながら袋を受け取り、中身を確認して僅かに口端を持ち上げる。その表情に背中を押され、俺は勢いに任せて続けた。 「昨日の、お礼です。その、ありがとうございました」  頭を下げようとしたが、手で制される。 「いい。頭は上げてくれ。サンキューな。でも昨日も言ったが、手作りじゃないのがちょっと残念だ」  おどけたように残念がる素振りをされ、俺は笑った。 「もちろん、来年は作ります」  俺の顔を見て、星はリアクションもなく、数秒間固まった。 「……?」 「あ、いや……」  なぜか照れたように頬を掻きながら、星はぼそっと言った。 「いい顔で笑うんだな」 「え?」 「いや、じゃあな。これ、ありがたくいただく」  ひらりと片手を上げて立ち去る星に、俺は見えないとは知りつつも、背後から頭を下げる。 「ふいー、やっぱオーラが違うな」  星と会話中には黙っていた裕翔が、緊張のあまり深く息を吐きながら俺の肩に手を置く。 「ああ……」  掠れた声で返事をした後、俺は星の話を聞くために他の生徒に続いて体育館に入っていく。  チョコレート受け取ってもらえてよかった。  お世辞なんて言うタイプじゃないから、きっとあれは本当に喜んでくれたんだ。  星とのやり取りをリプレイしながら、一人でぽかぽかと温かい感情に浸っていると、星とあの大男が壇上に登るのが見えた。 「みんな、授業中に呼び出して悪かったな。大事な話があるから集まってもらった。先生たちも早く授業の続きがしたくてうずうずしているだろうし、単刀直入に言うと……」  星がマイクも使わず、体育館中にいる全員に聞こえるほどのよく通る声で話し始める。星の声には周りの意識を集める不思議な力があり、ざわめいていた生徒は一瞬で水を打ったように静まり返った。 「こいつ、水戸修太郎が急遽引っ越すことになり、来月には副会長の座が空いてしまうから、その後釜を決めたいという話だ」  再び周囲がざわめき始めたが、星が手を上げるとすぐに静まった。 「みんな、急な話で驚くのは分かるが、最後まで聞いてくれ。そこで、俺が後釜に添えたい人物を推薦したいのだが……」  星の視線が誰かを探すように彷徨った後、俺と目が合うと、にやりと口元を緩めた。  
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