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会長と副会長
遠崎星は、生徒だけじゃなく教師もあっさりと言いくるめてしまう力があるらしく。選挙もなしに俺は次代副会長と認められ、本格的にその立場に就くまでの2週間、修太郎に付き従いながら行動することになった。
ただ、この修太郎という男がかなりの曲者だった。
「水戸」
と星がひと声名前を呼べば、修太郎は星が何を求めているのか察し、即座に仕事をこなす。しかも、仕事はミスは無論ないが、速さも仕事の正確さも完璧だった。
これが阿吽の呼吸というやつか、と最初は純粋に感動していたが、すぐにそれどころではないと気がついた。この修太郎と同じレベルのものを、星は俺に求めているのに違いなかったからだ。
「鳴海」
放課後、残って修太郎の作業を手伝っていると、修太郎が俺を鋭い声で呼んだ。
「は、はい」
「ここ、計算ミスだ。それから、次の卒業式の送辞の原稿はもうできたか?」
「すみません。一応、書いてはみたんですが……」
在校生代表として、例年は生徒会長が送辞を述べることになっているが、今年は異例に俺が副会長に抜擢されたということもあり、全校生徒に認めてもらうためにも俺が送辞を述べることになった。
人前でスピーチすることもだが、毎回現代文で赤点ギリギリの点数を取っている俺は、いきなり原稿を書けと言われてもまともな文章を思いつけなかった。そして修太郎は案の定、俺の原稿を見ると眉間にシワを寄せた。
「鳴海、これは」
修太郎の叱責に身構えていると、星が修太郎の後ろから原稿を奪い取った。
「ふうん。まあ確かに文章力はあれだが、これは別に現代文の採点というわけではない。気持ちが籠もっているかどうかが一番大事だ」
「星会長……」
「遠崎、そうは言ってもだな。送辞を聞くのは生徒だけじゃなく、保護者や教師もいる。少しでもまともな文章を考えなくては」
「まあ、待て待て。水戸の言い分も分かるが、卒業式は誰のものだ?保護者ももちろんだが、卒業生が一番の主役だ。だとしたら在校生として、彼らに対する最上級の餞の言葉を贈らないとな。それには、真っ直ぐに向ける気持ちが一番大事だ。違うか?」
「……まあ、そうだな」
修太郎は渋い顔をするが、星の言い分も分かるのだろう。頷いてみせたかと思えば、それならば、と言葉を続けた。
「原稿のチェックは遠崎に任せる。俺は他の引き継ぎ関連を教えることにする」
「ああ、そうしてくれ。お前は今日はもう帰れ。引っ越しの準備が大変なんだろ?」
「……まあな。じゃあ、後は任せた」
修太郎は星を会長として立てているのかもしれないが、大抵は星の言葉に逆らうことはない。苦笑いを浮かべながら立ち去ろうとする。
「あ、水戸先輩。その、遅くまでありがとうございました」
修太郎は背を向けたまま、片手を上げて応じて、生徒会室からいなくなった。
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