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「知ってるだろ、うちの美術部の話」
美術室には今日も誰もいなかった。
なんてことはない。昨日の表彰式で美術部員は一日中拘束されていたため、今日はその代休だ。先生も職員会議に出席している。
こんな話、他の誰にも聞かれたくなかったから都合がいい。
「そりゃあもう。先生が楽しそうに喋ってたよ。吹奏楽部も続きたいって」
「だろうなあ」
それは快挙だった。
数ヶ月前に行われた全日本美術コンクールでうちの美術部がほとんどの賞を独占したのだ。
大賞こそ逃したものの準大賞、入賞、そして佳作数作品に選出され、学校名まで掲載されたものだからうちの高校は一躍世間の注目の的となった。
普段そんな機会のない校長はノリノリでインタビューを受けていたし、教師陣や生徒たちもどこか誇らしげで、学校中がそのニュースに沸いていた。
「なんにも選ばれなかったんだよな、僕だけ」
うまく笑ったつもりだったが、こちらを向く古江は笑っていなかった。
先生から話を聞いてたなら、これも当然聞かされただろう。
ある部員以外の全員が受賞した、と。
「そりゃ体調も悪くなるよ」
「だろ。別に嘘ついてたわけじゃないんだって」
体調不良で欠席します。
そう伝えると顧問は訝しげだったが、あながち間違いでもなかったはずだ。睡眠も食事もろくに取っていない僕の身体の調子は万全ではなかっただろう。
そんな状態で僕以外の部員が表彰されている様を客席から見ているなんてできなかった。
「はあ、美術部の先生そういうとこ鈍感なんだよねえ。明日から敬語使うのやめよ」
「あからさますぎる」
ため息をつく古江をなだめてから窓際に目をやる。
そこには書きかけのキャンバスが壁に立てかけられていた。白い面に薄い灰色の線が何本も引かれている。
窓から差し込む光の当たらない場所で出番を待つかのようにひっそりと佇んでいる。このキャンバスに何色を乗せるかは僕次第だ。
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