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 静寂を破ったのは、がらりと勢いよく扉を開く音だった。 「ちょっと待ってて」  それだけ言い残して古江は開いた扉を閉めることもせず廊下へ飛び出す。そのまま駆けていく彼女を、僕はただ呆然と見送ることしかできない。  少しして、ぱたぱたと上履きが床を鳴らす音が近づいてきた。  再び現れた彼女の手には金色の楽器が握られている。 「よかった。消えてなかった」 「僕を幽霊だとでも?」 「早めに成仏しなよね」  軽口をたたきながら古江は美術室に入って扉を閉めた。  彼女の右手にある金色に目が奪われる。美術室にトランペットがある光景はなんだか新鮮だった。  音楽室は一個上だぞ、と頭では思ったが、彼女の言葉に先回りされる。 「秘密だよ。ほんとは持ち出しちゃいけないんだから」 「高そうだもんな」 「たぶん家とか買えちゃう」 「それはさすがに」  しかしはっきり否定しきれないほどに陽光を反射する金色は眩しい。  その眩い楽器を左手に持ったまま、古江は右手で窓を開けた。  外の騒めきが静かだった美術室に流れ込んでくる。 「こっち来て」  言われるがまま歩み寄ると、古江はいきなり僕の手を掴んだ。不意に触れた彼女の手のやわらかさに身体が固まる。  そんなことお構いなしに古江はトランペットを窓の外に向けて構えた。  そして、握ったままの僕の手を自分の左手に触れさせる。 「ほら、わかる?」 「……あ」
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