三、夜伽ってなんだろう。

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「陛下には恩がありますから。以前、私はプレティナの王の飼い犬でした。安い飯のためになんでもする……ていのいい奴隷のようなものです。プレティナと戦になった時、まだ幼い豪龍様が私を救ってくださった。皇帝になられる前のことでしたが、父上である前皇帝陛下は豪龍様を可愛がっておられたので、その願いを聞き届けてくださったのです」 「そんな、幼い頃から、戦に……?」 「ここはそういう国です。そして陛下は、それに応えるだけの力がございました」  戦に出るってことは、人を殺めるということだ。  そして自分も、殺される危険があるということ。   あたしなら怖くて怖くて、そんなこととてもできない。  やっぱり皇帝様は特別なんだ。恐怖に打ち勝つ力と、その自信を支える腕があるんだ。   「向いているんですね、戦いに――」 「……そう思いますか? 私は、あんなに皇帝に――」  ミハイロさんはなにか言おうとしたけど、途中でハッとして言葉を切った。だからその続きは、なにかわからないままだった。 「失礼いたしました。余計なことをベラベラと」 「い、いえ」 「不思議です、なぜあなたにこんなことを……あなたがこの国の事情とは、遠い場所にいる人だからかもしれません」  遠い場所……確かに、そうだ。ヒーリストとして派遣されなければ、ここに来ることはなかったし、国の事情や政治的なことなんて、小さなユニ族には関係ないし、言われたところでわからない。 「大丈夫です、ユニの民は口が堅いので。偉い方の治療に赴くことが多いですから、依頼人や国の事情など、絶対に他国で話したりしません。万が一、守秘義務を破るようなことがあれば、信用を失くして、滅ぼされることになりかねませんから」 「……そうですね、お国に帰られても話されないよう、お願いいたします」  ミハイロさんはそう言うと、花畑に背を向け歩き出す。  やがて正門に到着すると、ふと大階段が目に入る。  このお城の一階は、大階段を上った場所から始まっている。だとしたら、大階段の内側はどうなっているんだろう。  こんなに大きいのに、中が空洞か石だけ、なんてことはないと思うけど。 「あの……階段の部分はどうなってるんですか? お風呂は地下だったみたいですけど」 「そうですね、城で暮らしている者たちの風呂がいくつかあります。それから……罪人を裁いたり、拷問したりする部屋も……」  サーと血の気が引いてゆく。  だって、明日にでも、いや、今日にだって、力がないことがバレたら、あたしもそこに連れていかれるかもしれないのだから。そう考えると、他人事ではなかった。 「あなたは知らなくてよいことです。あまり首を突っ込まないよう」 「は、はい……」 「では、城に戻りましょう、次は中を案内いたします。処刑場や拷問場、武器庫など、あなたに関係ない場所以外はお連れしますので」  聞くんじゃなかった、と後悔しながら、あたしはミハイロさんについて、お城の中に戻った。
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