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一階のだだっ広い場所を横切る時、ふと視界に青い椅子が入る。
「ここは大広間です、なにか話がある時に陛下が人を集められたり、会合を開く時などに使われます」
「それじゃあ、あの青い椅子は……」
「当然、陛下が座られる場所です、青い道も、陛下のみが歩くことを許されています」
青に金色の装飾が施された豪華な椅子、そこに皇帝様が座るのを想像すると、すごくサマになってカッコイイ。
それからミハイロさんは、料理を作る厨房や、臣下たちの食堂、休憩所やお風呂場を案内してくれた。
そして最後に立ち止まったのは、焦茶色の扉の前だった。
他の部屋より一回りくらい大きな扉の端には、縦に長い金色の取っ手がついている。
ミハイロさんはそこを持つと、グッと奥に押すように開いた。
すると中から現れたのは、壁面いっぱいに並んだ本棚。
あたしは目を大きくしながら「うわぁ……」と声を漏らすと、徐々にドアの向こうに足を踏み入れた。
キョロキョロ辺りを見回してみるけど、本当に、壁面がすべて本棚で埋め尽くされている。
さらに驚いたのは、本棚の終わりが見えないことだ。左右ともに、真っ直ぐ続く本の道。一番遠いところが角になっていて、曲がっているように見える。あたしは視力がいいから、間違いないと思う。
「すごい、これってどこまで続いてるんですか?」
「この階はすべて書庫になっております」
「え……えぇっ!?」
驚きのあまり振り返るあたしだけど、扉を背に立ったミハイロさんは冷静な顔のままだった。
「ここが目的地ですので、お好きにご利用ください。いくら読まれても問題ありません。ただ、持ち出しは禁止ですので、ご注意ください」
「あ、は、はい」
「では、私は職務がありますので、これで失礼いたします。なにかあれば呉の者を呼んでください」
「呼ぶって、どうやって……」
「名前を呼べばどこへでも現れますよ、呉はそういう家系の者なので」
「は、はぁ……」
マヌケな返事をするあたしに、ミハイロさんは綺麗にお辞儀をすると、扉を開けて出ていった。
ミハイロさんを見送ると、あたしは改めて本棚と向き合う。
あたしの背じゃ届かないくらい、高いところまで本がビッシリ並んでる。
「すごい数……皇帝様の言った通りだ」
一生かかっても読み尽くせないほど――そんな皇帝様の言葉を思い出す。
小さな頃、おばあちゃんに絵本を読んでもらうのが好きだった。
そのうち字が多い本も読むようになったけど、おばあちゃんが亡くなってからは、新しい本を買ってもらえなかった。
だからこんなにたくさんの本を前に、期待が膨らまないはずがない。
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