恋の種

1/1

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

恋の種

きっと委員長が探している物それは。 それは、バレンタインチョコだ。それも、しっかりと意味を持った本命のチョコ。 これは、委員長の真面目で規律を重んじる性格が招いた事故だ。 全ての原因は『2月14日のチョコレート持ち込み禁止』にある。 委員長はきっと、今年のバレンタインデーで意中の相手にチョコを上げる計画をしていた。 しかし、急遽学校側から持ち込み禁止の通達が流れた。 普通の生徒ならきっと、計画を強行するだろう。 しかし、委員長は違った。彼女は委員長であり風紀委員。取り締まる側ですらある。 この通達を無視する事が出来なかった。 「本当に、損な性格してるよ。」 「えっ?見つかったの?」 「いや、何でもない。気にしないで。」 だから、委員長はこの通達のをついた。 『2月14日の持ち込み禁止』。 だから彼女は、前日の2月13日にチョコを持ち込んだ。 僕にこの差の違いはあまり分からないが委員長には天と地、正義と悪とハッキリしているんだろう。 そしてその保管場所にグラウンドの雪の中を選んだんだ。 教室内は、暖房が効いていてチョコの保管場所には適していないのもその理由の一つだろう。 しかし、不幸にも事態は急変した。 連日降る雪の影響で、校舎付近の雪かきが行われた。 その雪の行き先が、不幸にもグラウンドだったということか。 これでは、もう元の位置など関係が無いようなものだ。 ザッザッ。 ザッ。 それにしても見つからない。 「ねぇ、委員長。」 「何よ。」 ザッザッ。 「諦めても良いんじゃない?春になれば出てくるし誰のかなんて分からないんじゃない?」 「ダメに決まってるでしょ。それだけは絶対にダメ。」委員長は強く拒絶する。 「見つけたところで、それを使うつもりなの?」少し確信をついた質問を投げる。 「渡せる訳無いじゃない。でも絶対にダメなの。見つけなくちゃ……ダメなの。」 委員長のスコップにチカラが入る。 絶対にダメ………。 そうか、なるほど。そういう訳か。 委員長のバレンタインチョコには、一緒にラブレターもセットになっているんだろう。しかも、恐らくお互いの名前入りの。 たしかに、それは他人に見られたくない。 もし、春になり雪が溶けこのが誰かに見つけられたとしよう、他人の手によって意中の相手へ渡ってしまってはロマンチックの欠片もない。 まず、意中の相手は何と言って受け取れば良いのか、それこそ対応に困る。 それに、そんなカタチで意中の相手に思いが伝わってしまうのは当然、委員長も本意では無い。 でも。 どうだろうか。 本意では無いが気持ちは伝わる。思いは伝わる。 もう既に委員長は、告白の機会を失っている訳で改めてチョコを作り、渡したりはしないだろう。 バレンタインデーは、既に二日前に終わっているのだから………。 ならいっその事………。 ザッザッ。 ザッザッ。 ザッ。 バリッ。 勢い良く突き刺したスコップが、異質な音を響かせる。 朗らかにさっきまでとは、違う感触に音。 僕はスコップを放り投げ、手で雪を掻き分ける。 押し固まった雪は、思ったより固く進行を妨げる。 指先が痛い。 ガリ。ガリガリ。掘る。 呼吸が荒くなり、白い息が勢いを増す。もう少し。 良し、取れた。 それは、真空パックに入れたれた可愛いらしい小包だった。箱は少し潰れていたが思ったより原型を留めている様に見えた。 「い、委員長。」 「何よ。見つかったの?」 「ああ、見つけた。」 「そう。それは良かったわね。」 …………。 「えっ!見つかったの!?」 ……だからそう言っている。 委員長は、勢い良く雪をかきわけて僕の元へ走ってきた。 そして、その小包を手に取ると胸の前で強く抱きしめて言った。 「あぁ。良かったぁ。」 うむ。 「鏑木くん、本当にありがとう。」 「ああ。」 こうして、委員長のは無事に僕たちの手で発見された。 バレンタインデー前日の2月13日、委員長の手によって雪の中に埋められたは、春を待たずにこうして無事に収穫された。 あまりにも、早い収穫だ。 でも。 本当にこれで良かったのだろうか。 もしかしたら、その種は予想も出来ない綺麗な花を咲かせる未来もあったのかもしれないんじゃなかろうか。 しかしそれはもう、誰にも知る由もない事だ。 かじかんだ手に白い息をかけて僕は言う。 「どういたしまして。」 おわり。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加