ティア・テイスティング

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「さて、こちらはどうですか?」 対面の講師がスポイトで私の手の甲に雫を垂らす。 私は迷わずそれを舐めとり、しっかりと味わう。 「あまりしょっぱくなく、割と甘め…それに爽やかさというか、明るい味を感じます」 「素晴らしい。では、そこから導かれる答えはなんでしょう?」 講師の期待を感じながら、講義で学んだことを反芻して答えを導く。 「…この甘さは恋の味だと思います。塩気が少ないので悲しい感じではなく…嬉しい時?…ということは、告白のOKをもらった時、でしょうか?」 私が答えると、講師は嬉しそうに笑い、指で丸を作った。 「正解です。なかなかいい考察ですよ。ふふ、期待のルーキーには簡単すぎましたね」 期待の、と言われると気恥ずかしいが褒められるのは嬉しい。 その後もいくつかの問題を出されたが、迷いながらも正解を重ねていく。 「本当に優秀ですね。最後のは引っかけ問題の王道なんですが、間違わない人のほうが珍しいんですよ」 そう言って、解説を始める。 私がこのセミナーに通って、もう1ヶ月。 当初6人ほどいた受講者も、4回目にして今や私だけだ。 検定の性質上、実技重視の面があり、それが受け入れられない人もいたようだ。 講師の解説を聞きながら正面のホワイトボードを見る。 『ティア・テイスティング検定講座』 涙の味を判定する検定の、基礎講座。 それが私が通うセミナーである。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!