0. はじまりのひと

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0. はじまりのひと

高3のとき黒川という同級生がいた。 黒川は色が白く、かわいい顔に似合わず背が高い。 骨ばった大きな手と、赤くぷっくりとした唇が印象的だった。 彼は女子に人気があった。とてもモテる。 わたしが黒川に少しだけ好意をもって接していたのは事実だが、それほど積極的にはなれなかった。 黒川はわたしには眩しすぎた。 とはいえわたしたちは数人の仲良しグループにいたから、いつもみんなで放課後や休み時間にはじゃれ合って遊んでいた。 ある日いつものようにふざけあっていると、黒川がわたしの両腕をつかみ片手で束ねた。 「そんなにいじわるすると逮捕しまーす」 はは、と笑いながらいたずらにそう言った。 黒川の大きな手にすっぽりとわたしの腕首は収まってしまった。 心臓がドンと大きく鳴った。 一瞬で体温が上がり呼吸が早くなる。 それが初めてだれかに「縛られた」記憶だった。 わたしの変化がバレてしまったのかもしれない。それから頻繁に黒川は私を逮捕するようになった。 わたしは黒川にそうして欲しかったのだろうか。 逮捕されるのを待っている自分に気が付いた。 骨ばった大きな手でがっちりと両腕を固定され、わたしはすっかり黒川に夢中になっていた。 わたしの手首の骨に黒川の指の骨があたって痛い… それがさらにわたしの体温を上げる。 「はい、逮捕っ」 あの赤く厚い唇から出る艶のある低い声は、そう言って何度も何度もわたしを犯す。 無邪気な笑顔で何度も。 すっかり大人になった今、あの行為がどんなものなのか理解できる。 学校で… みんなのいる前で… 無意識とはいえ、私たちはどうかしていた。 思い出したらまた心臓がドクドクとして、思わず目の前にある杏露酒のロックを一気に飲んでしまった。 隣りに座っている飲み友達の坂本は、驚いた顔でそんなわたしを見ていた。
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