幸せな夫

2/2
前へ
/6ページ
次へ
妻から妊娠していると聞かされた。 最悪だ。 かれこれ二年程続いている不倫相手との再婚を考えているこのタイミングでこんなことになるなんて。 まぁ、心当たりはある。したたかに酔って帰ったあの夜だ。しばらく不倫相手に会えず欲求不満だった俺は気付けば妻を押し倒していた。いくら欲求不満だったとはいえ、酔ってさえいなかったらあんな石みたいな女抱くことなんてなかったのに……。一生の不覚だ。 妊娠を告げられた瞬間、思わず「俺の子じゃないだろ」と叫んでしまった。あの女が不倫なんてするはずもないのに。 あいつは一瞬顔を強張らせた後、能面のように無表情になった。指先だけが小刻みに震えていたのを覚えてる。 俺は「風呂入ってくる」と言ってその場を逃げ出した。おそるおそる風呂から出てみると妻はいつもと変わらぬ調子で「お夕飯の支度ができましたよ」何て言ってくる。妊娠したというのはハッタリだったんだろうか。それ以来妻は妊娠について何も言ってこない。本当に何を考えているのかわからない女だ。 まぁいい、そろそろ潮時だ。来週あたり話をしよう。金ならくれてやるから出ていけ、そう言ってやるつもりだ。 あいつの実家は金持ちなんだから実家に帰ればいい。 そもそもあの上品ぶった話し方も気に入らなかったんだ。今時あんな話し方をする女がいるとは思わなかった。なぁにがお母さま、だ。 取引先の社長の娘、ただそれだけで決めた結婚だった。だから離婚したくてもなかなかできなかったが来月転職することが決まった。これでもう何のしがらみもない。俺は自由だ。 幸せな未来が待っているに違いない。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加