出発

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「り、亮二くん…島民がいますよ…」 「堂々と歩くんだ。この島の住民になりきれ」 町の所々に島民がいる。 しかし、島民はこちらの様子に気づくも、不審がる様子はない。 「と、島民たちがスルーしていきますよ」 「やっぱりな。誰も俺らが向こうの島から来た住民だとは思っていないということだ」 俺らはまっすぐに目の前の道を歩いて行く。 「確か、お前の家はこの路地裏だったな」 「えぇ、しかし、緊張します」 「いつも通りにしてろ。いつも通り、家に帰るんだ」 「は、はい…」 左に入っていける路地が見える。ここを左に曲がり、さらに歩いて行く。 「…あ、ありました。あそこです。でも、車が置いてある…」 「さっきの軽トラっぽいな。ということは親父さんは帰って来てるみたいだな」 平屋の建物の横のガレージに、1台の軽トラと、原付が止まっている。 「僕の自転車が置いてないですね」 「自転車がないって事は、この島の本堂は出掛けてるってことか」 「そうですね」 「じゃあ、今しかない。さ、行くぞ」 「え、えぇ」 再び家の前まで、歩いていく。 「つ、着きました」 「入るぞ」 「はい…」 本堂が恐る恐る、ドアに手をかける。 ーーーーガチャガチャ 「…閉まってますね」 「…」 「家の鍵で、」 そう言って、本堂はポケットから家の鍵を取り出し、ドアノブに差し込むが、開く気配はない。 「…あ、開かない」 「…」 「秀!!もう行って来たのか!!早いな!!」 突然後ろから声をかけられた。 鍵に気を取られ、後ろの気配に気づくのが遅れた。 「ひ、ひぃっ!?」 「あ、どした秀??」 「…え、えっと」 お父さんのようで、お父さんではない。本堂は固まってしまい、声が出ない。 「あー??」 「こんにちは、お父さん。お久しぶりです」 「おー亮二くん!!てか昨日会ったばかりじゃねぇか!?今日はどうした??」 「授業で船の構造について調べる宿題がありまして、本堂くんと一緒に宿題をしに来たんです」 「そっかそっか!!とりあえず、ここじゃ何だから家入れ!!」 そう言って本堂の父は持っていた鍵で扉を開け、俺らを家に入れた。 「ほ、本当に気付いてないみたいですね」 「…あぁ」 靴を脱ぎ、リビングへと案内される。 「左右対称の部屋、なんか不思議ですね」 その部屋はいつも見るリビングとは全く別物であり、よく知っている部屋のようでもあった。 「お茶でも飲んでいけ」 「あぁ、お構いなく」 本堂の父は冷蔵庫からお茶を取り出し、2つのコップに注いでいく。 「船の宿題って、どんな宿題なんだ??」 本堂の父が俺らに聞く。 「え、えっと」 「船の構造を調べる宿題で、船の動力の仕組みとかを図に描いてまとめるんです。うちはじいちゃんが漁師で船について調べる時間がほとんどないので、本堂くんと一緒に宿題をやることにしてもらったんです」 「そうかそうか。好きなだけ宿題していってくれ」 そう言って目の前にお茶がコトンと置かれる。 「にしてもお前ら、はどうした??」 「実は、その宿題今日まででして、急いで帰って来たんです。今から宿題を済ませる予定です」 「はっはっはっ!!2人揃って今日までの宿題やってないのか!!秀が宿題やってないなんて珍しいな??」 「本当ですね」 俺は、本堂腕を肘で突き、小声で聞いた。 「この島の本堂はもうすぐ帰ってくるぞ。あまり時間はない。工具持って部品回収するぞ」 「わ、分かりました」 本堂が、本堂の父に聞く。 「お、お父さん。工具ってどこ??」 「工具??物置にあるんじゃねぇか??」 そう言って本堂の父は廊下の方に歩いていった。 「…何か必要になりそうなものを持っていこう」 「…分かりました」 ーーーー しばらくして本堂の父が工具を持って戻って来た。 「工具あったぞ」 「あ、ありがとうお父さん」 本堂は本堂の父から工具を受け取り、3人は玄関へと向かう。 「俺はこの後まだ予定があるからな。しっかり宿題やっておけよ」 そう言って本堂の父は玄関の扉を開ける。 靴の紐を結び、立ちあがろうとした時、無線機が鳴った。 「…どうした??」 「早くその場から逃げろ!!」 無線機から灘の叫ぶような声が聞こえた。 「ど、どうした!?」 「島の奴らに見つかった。こいつらは、ただの島民じゃない」 「…??」 どいういうことだ?? 玄関を出て、本堂の父が鍵を閉めた。その時、道の向こうから、1台の自転車が走って来た。 「ただいま、お父さんー」 「おお!!おかえり、って、あ??どういうことだ??」 その自転車には乗っていたのは、本堂秀だった。 「秀が、2人??」 「わ、私がいる…」 本堂の父は自転車に乗って来た本堂に向かって聞いた。 「お前、買い物はどうした??」 「??今帰って来たところだよ」 そう聞いて、本堂の父は俺らの方を振り返った。 「お前らは何者だ??もしかし、て、トウガイ、者?」 本堂の父はこちらを向く。そして、こちらを向いたまま、自転車に乗った本堂に聞いた。 「秀、昨日は何してた」 「昨日はお父さんと漁にいったよ。アジが8匹、秋サンマが4匹釣れたじゃないか」 「…」 本堂の父の爽やかな表情はいつの前にか消え、その表情は無に近いものになっていた。そして、 「お前ら、島外者か??島外者、トウガイ、シャ、トウ、ガイ、シャ」 本堂の父の全身から、毛のようなものが生えて来た。そして、みるみるうちにその毛は全身を覆い、得体の知れないものへと変化した。 「あ、あぁ…あぁ…」 本堂が腰を抜かし、その場に尻餅をつく。 「ト、ウガイ、シャ、コ、ロス、ト、ウ、ガイ、シャコロ、ス」 バリバリと服は裂け、身長は3メートルほどまで膨れ上がる。 「おいおい…何だよ、こいつらは…」 再び無線機から声が聞こえる。 「おい!!聞いてるのか!!こいつらは、ただの島民じゃない。島民の姿をした鏡島の化物だ!!」 「ト、ウ、ガイ、シャ、コロス、ト、ウ、ガイシャ、コロス!!!!」 「本堂!!逃げるぞ!!」 「は、はいぃぃ!!!!」
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