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「さて、ライフジャケットは付けたな。じゃ、行くぞ」
レバーを前に倒し、船を前進させる。
ーーーーブロロロローーーー
港を出て、沖の方に向かっていく。
「レーダーから、仕掛けの位置を把握、っと」
ハンドルをゆっくりと左に切り、船がゆっくりと左に旋回していく。
「わぁ、綺麗」
「久々に沖まで出たなー」
一面の青い景色に揺られながら、目的地へと進む。
「亮二くん」
灘が俺に話しかけて来た。
「お、なんだ」
「あの島は何、?」
「あ、あれか。あれは、俺もよく分からん。じぃちゃんにはあそこには近づくなって念押されててよ、詳しく知らねぇんだ」
「そうなんだ。にしても、あの島だけ黒い雲がかかっていて不思議だね」
俺らの住む島の向こうには、もう一つの島が存在する。
島の面積はもちろん、姿形が全く同じの正体不明の島である。
昔からその島への立ち入りが禁止されており、その島を詳しく知る者はいない。
「ちなみに、あの島は何て言うの??」
「瓜二つ対照的な島。鏡島。別名ミラー島だ。」
ーーーー
5kmほど走っただろうか。ようやく仕掛けのポイントにやって来た。
「じぃちゃんこんなとこに仕掛け置いたんか。ここで獲れるんかな」
屋根からフックのついた棒を取り、船頭から仕掛けを回収する。
「よーく見てろ、仕掛けは手じゃ取れんからこの棒でここを引っ掛けて取るんだ」
「おー」
「なるほど」
「そんで、まだだ。仕掛けの先にはまだ網が付いている。その網をどんどん引っ張っていく。2人ずつで端をもってどんどん上げて来てくれ」
多島と綾野、灘と本堂で端を持ち、その間を引っ張っていき、どんどん網を手繰り寄せていく。
「お!入ってる入ってる!」
「本当だ!いっぱいいるね!」
「おお」
「なかなか入っていますね」
まだ真ん中ぐらいまでしか引き上げて来ていないが、かなり入っている。
「よっしゃ、もっと引っ張れ!」
ーーーー
「いっぱいいるー!」
綾野は興味津々だ。
「大漁やなー」
にしても、じいちゃんこんなところのポイントまで把握してるんか。詳しいんだな。
「網引き上げたら、どんどんそこ入れてけー」
ーーーー
「今日は大漁だったなー亮二」
「あぁ、いつもの3倍は獲れてるな」
仕掛けを片付けて、港へ戻る支度をする。
「帰ったら食べれる??」
「もちろん食べれるぞ」
「やったぁー!」
「興味がありますね。私も是非食べてみたいものですね」
そんなことを話しながら運転席へ向かい、船のキーを捻る。
ーーーーブルルン…ブルルン…。
「…ありゃ、エンジンがかからん」
「ん?どした亮二。エンストか??」
「あぁ、ガソリンはまだあるし、何でだ」
キーを何度も捻るが、一向にエンジンがかからない。
「早く帰って食べよー」
「私も小腹が空きましたね」
「…ちょっと見せて」
灘がエンジンの積んである扉を開ける。
「なんか、わかるか??」
「…うーん。中のモーターが故障してるかも」
そう言って灘がモーター部分を確認し、しばらくして、
「やっぱりモーターだ」
と言った。
「お前、詳しいんな。専門家か?」
「元々船が好きだったのと、うちも家が漁師でさ、船には少し詳しいんだよ」
なるほど、通りで詳しいわけだ。
ーーーー
「んでよ、結局いつ帰れるんだ??」
多島も綾野も、帰りたそうにしている。
「ちょっと、まだわかんねぇ。今灘にエンジン見てもらったけど、モーターの故障らしい」
「そっか、。もう少しだね」
「私も修理となると、また別ですからね」
本堂が、中指でメガネをカチャッとさせて言った。
「…じいちゃんに連絡入れておくか」
そう言って携帯を取り出すが、圏外のようだ。
「…ちょっと、今日は帰れねぇかもな」
「え!船で一泊!?」
「おやまぁ、船内泊とは」
エンジンがかからず、電波も届かない以上、港へは戻れなさそうだ。
「とりあえず、灘とモーターの修理をしてみるが、今日は泊まりだ。夜は少し冷えるから一枚着ておけ」
「…分かった。飯はあるのか??」
「非常食が倉庫に入ってる。5人で1週間分だ」
そう言って、俺は島の方を見る。
「…おい、灘。今日、何日だ??」
「今日は、9日だよ。」
「…」
すかさず俺は運転席横の壁に貼ってある潮位表を確認する。
「…まずいな、。」
「どした??」
「このまま流されると、明日の朝には着いちまう」
「…着くって、どこに、?」
「…立ち入り禁止の場所、鏡島に、だ」
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