ふるえる

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 救急車がサイレンを鳴らして走っていくのを目で追いながら、あなたはうるさいなと言った。  私はあなたの顔を見上げた。  そういえば、年末に近所のお寺から除夜の鐘が聞こえ始めた時も、あなたはうるさいなと言っていた。  私はそれを思い出しながら、顔を前に戻した。  そうだろうか?  私は思った。  それはあなたが思っている事だろうか。  あなたの内から出てくる感想だろうか。  それはあなたが小さい頃に、保護者が嫌な表情をして漏らした言葉ではなかったのか?  それがあなたの脳に刷り込まれて、今、口から出てきただけじゃないのか。  信号が青になり、私は歩きだした。  あなたも一緒に歩きはじめる。  私は少し曲がり角の方を向いて、道の奥に目をやった。  そして、また前を向く。  サイレンの音を聞いて私は無事であればいいがと思う、除夜の鐘をきいて年が明けるのかと思いをはせる。  あなたはうるさいと呟く。  それは本心か。  あなたが正しく自分の核の感覚を口から出せているのか、ただ瞼に重くのしかかる記憶が呼び起こされて口から出てきただけなのか、私は疑って、またあなたの顔を見上げてみた。  また横断歩道で立ち止まった。  私は怖くなって、ふるえた。
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