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心霊好きの友人がついに我が家に遊びに来た。
趣味も持たず恋愛もせずただひたすら働いて働いて働き続けて22年。
もう婚期など過ぎた頃やっと念願叶えて手に入れた都心の一戸建てなのだ。
これもまた念願だった保護猫を迎い入れ、
達成感の中、穏やかて充実した毎日をスタートさせてそろそろ1年が経つ。
そして、その幸せな生活の中にちらちらと現れ始めた違和感。違和感?異変なのか。
仕事から帰り郵便ポストの中を確認すると空。
だが翌朝出勤時にポストを見ると、郵便物が入っている。夜中に配達?ん?
猫が吐き戻した物の中に見覚えのない魚の骨。
カリカリしか食べさせていないし、自分も家で骨付きの魚は食べたことはない。ん?
空になったから買い足したシャンプーを詰め替えようとすると、中身がある。水、足したんだっけ?ん?
平日の夜の楽しみにしている晩酌用のワイン。
同じ量しか飲んでないはずなのに減りが週末毎に違うんだよな。漏れてる?湧いてる?ん?
トイレットペーパーの切り口が荒れてる。朝、急いでたっけ?こんな雑にちぎったこと今までないと思うけど。いつも切り取り線できっちり切るのにな。ん?
洗面所に長い黒髪が一本落ちていたり、玄関に同じような髪の毛が落ちている日も増えて来たんだ。電車で黒髪の人は側にいなかったと思うんだけど。コートに付いていた?ん?
猫の見守りカメラが止まってる日も時々ある。
猫が照れ隠しに止めてんの?ん?
雨戸のシャッターを下ろそうとして、窓の鍵がかけられていないことに気づいた時はさすがにおかしいと思ったよ。戸締りを忘れるなんて考えられない。ボケたの?ん?
たまにしか付けない間接照明の色が、真ん中だけ赤っぽく変色してるけど、劣化?ん?
湯船に浸かると決まって外で物音がする。気配を感じて息を潜めちゃうんだ。おかげで長湯に慣れてしまった。ん?
突然窓に黄緑色の何かがドロリと垂れていたり。なにこれ?大量の鳥のフン?ん?
テレビの音が急に小さくなったり。故障?ん?
部屋の中にキラキラチカチカした細かい光が通るたび、指先が痛くなる。痛風?ん?
置いたものの位置が微妙に変わっていたり、閉めたはずの戸が開いていたりするのは、猫の仕業だよね?猫は引き出しも開けられる?ん?
毎日少しずつの違和感を、久しぶりに会った友人に話したんだ。そしたら、身を乗り出して、面白がって、心霊ハウスだったら商売になるとか言っちゃって。次の週末にすぐ来てくれた。
友人は、我が家に来るために幾つかの除霊用品を携えていた。何かの乾いた草とか、おかしな形の木製品とか、蝋燭やお線香やお札の類も持って来てくれた。
家に招き入れた途端に、友人は耳を澄まして立ち止まった。まだ玄関だよ?
そして、ひとこと言って帰ってしまった。
あ。これは俺の管轄外。やっぱり人間が一番怖いよな。は、は、は。じゃ。 だって。ん?
震えた方がいいのかな、ん?
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