ピンチに夢なら醒めて──と思ったんだけど……ね

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ピンチに夢なら醒めて──と思ったんだけど……ね

 そんな僕の行動がエリアスをムキにさせたのか、『良いだろう』『駄目です』と、囁きの押し問答を繰り返し、猛然と口唇を寄せられ、   「ちょ……折原さん、助けて下さいッ、折原さぁん──」  堪り兼ねて叫び声を上げると、逆に名前を呼ばれた。    二度、三度と名前を呼ばれ──   「…………?」  一瞬、(もや)が掛かって思えた視界が、パッ──と晴れると、心配そうに僕を見下ろすエリアスの綺麗な碧い瞳とぶつかった。   「──はぇ?」  思わず間抜けな声を洩らし辺りを見渡すと、そこはやはり車内だが、僕はエリアスの膝枕を借りシートに横たわってしまっていた。   「──どんな悪夢よ? 助けてって……」  助手席から身を乗り出し、覗き込んで来た折原に、   「相当疲れてるんだな。──挨拶が済んだら真っ直ぐホテルに入りなさい」  渋い顔で懸念を向けられ、素直に『はい』と返した僕は、素早く起き上がるとエリアスに『すみませんでした』と頭を下げた。   「長旅でしたからね。ゆっくり休んで下さい」  向けられた爽やかな笑顔の、その澄んだ瞳に僕は激しく自分を恥じた。    ──何であんな夢、見ちゃったんだろう……    走り出した車が悪路に揺れると、そっとエリアスが身体を支えてくれた。恐縮に『すみません』と小さく向けると、   「貴方とチームを組めること、とても楽しみですよ。日本へ行くのが待ち遠しいです」  爽やかな笑顔のまま告げられ、更に恥じ入り顔が赤くなるのを感じた。  恐らく二十五年間生きて来て、一位二位を争う恥ずかしさだ。愛想笑いを浮かべ、小さく頷いた僕に、   「──貴方を全面的に信頼し、サポートします」  真っ直ぐな眼差しを寄越してエリアスは笑った。   ──ん……あれ、聞いたことある台詞?     途端に愛想笑いを引っ込め動揺した僕に、目的地までは暫く掛かるので、休んでいて下さいと抱き寄せられ、   「いや、あの……大丈夫ですから──」  シートの上で飛退いた僕は、出来る限り彼から離れ、窓の外へ顔を向けた。  車はもう市街地を抜けて、窓の外は広大な田園風景に変わっていた。 視線を上げると空は快晴。雲一つ無くて。    日本はもう真夜中だな。禅はもう寝たのかな? なんて思いながら、急に重くなった瞼蓋を素直に降ろした。  ●お し ま い●
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