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全ての始まり
私の不可思議な力に気が付いたのは、物心がついた頃だ。
血塗れで人の形をとどめていない人が、目の前をゆっくりと歩いて行く姿を見た時は、思わず声を出しそうになってしまったこともある。
とにかく他の人には全く見えない物が、私には見えてしまうのだ。
ひたすら見えない振りをすることに努めた。
その時は、母に言っても理解してもらえないだろうと思っていたから。
私には見えてしまうけど、他の人には見えない。とても単純な仕組みだけど、これ程、他の人の理解を得ることが難しい仕組みはないだろう。
私には父がいなかったから、母と過ごした時間が家族と過ごした唯一の時間となる。
私の力が異常であることを嫌と言うほど知ったのは、母と一緒にお出かけをしているときだったかな。
繁華街を歩いていたら、不意に目の前が真っ暗になる。
暗闇の中に閉じ込められた感覚になり、怖さに心が鷲掴みにされてしまう。
両脚がガクガクと震えだす。
目の前が急に明るくなったと思った瞬間、黒い影のような女の人が現れ、女の人の顔が視界を一気に支配をして、歪みだし、ケラケラと笑い出す。
悲鳴を上げて、へたり込んでしまった。
身体の震えが止まらず、泣き叫んでしまう。
母は冷静だった。
私を優しく抱きしめ、嗚咽が収まるのを待ち、私を傍に寄せて歩き出した。
「家に戻るよ。ここにいたら大変な事になるから」
そう言って、母は、私を抱き寄せた状態で、家まで歩き続けた。
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