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修行は白装束を着て行う。
どれだけ寒くなっても、これ以上、何かを身に着ける事は許されない。
最初はお寺のうす暗い寒気以外存在しない部屋で一人、四本の短い柱に四方を囲まれた中に座り続けると言うものだった。
食事は質素なもので、朝と晩と一日二回。
何もせず。
何も考えず。
一人で狭い空間の中、静寂と孤独に向き合い続けるのだ。
夜になれば、真っ暗になり、何も見えない。
暗闇が支配する世界。
音すら存在しない……。
こんな状況がどれくらい続いただろうか。
日数の感覚が無くなってくる。
暗闇の中、やたらと笑みが毀れるようになる。
聞こえない筈の雑音が頭の中に入り込んできた。
身体がガタガタと震えだす。
何も存在しない筈なのに、周りに何かの嫌な気配が漂いだす。
目を開く。
一瞬、目の前が白く輝く。
何もない。
漆黒の闇だけが存在している。
許可が出るまでは眠る事も出来ない。
眠る時間以外に寝てしまったら、容赦なく叩き起こされる。
私を監視している人間がいるからだ。
自分だけの存在が許された空間で、一人、闇の中で自分の存在と格闘を続ける。
何を考えていれば良い?
何も考える必要はない。
ただ、何も考えずに、ここに座り続けていれば良いだけだ。
両目をしっかりと開いて、正面の闇を見つめ続けていれば良いのだ。
自分がここに存在をしている。
それだけを確認していれば良い。
全ての存在は私にとって『無』でしかない。
『無』?
どう捉えたら良い?
捉える必要はない。
捉えようとする物でもないし、考えようとするべき物でもない。
『無』という概念の中で、存在と言う認識を超えていかなければならないのだ。
音も、光も、色も、全ては『無』の中に取り込まれてしまえば、認識をする必要はないし、意識することも無くなってくる。
全ては『無』なのだ。
そう……。
全ては『無』……。
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