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 ワタシはデブだ。  駆けっこはいつもビリで、4段の跳び箱にドンってお尻を乗っけていた。逆上がりができなくて、ケツが重いからだ、と男子に(わら)われた。  胸が大きく、お尻が大きい。ここまでなら⊕ポイントかもしれない。が、途中にクビレが無いから、オセロの石が一斉にひっくり返るみたいに、ポイント符号は⊖に転じる。   運動音痴のデブはアイデンティティを求め、せっせと図書室に通った。小説を読みまくり、ガシガシ詩やらを書き散らした。好きだったからね。無理したワケじゃない。  そうやってこしらえたアイデンティティが、ポニーテールの文学少女系JK――ワタシの現住所だ。  クラスの子らが、推しアイドルやカッコイイ先輩男子のハナシで盛り上がっていても、輪の外でうなずくだけ。自分には関係ない、って妙に()めてる。  だって、小説を読むほどに、ヒロインになれない自分を確信するからだ。  ──太いヒロインって、いないじゃん。  ところがところが、高二の冬の日、そんなワタシにロマンスが舞い降りた。ちらちら踊る雪のように。  えっ、て誰だって思うだろう。  ワタシが真っ先にそう思ったのだから!      * 「目がとってもキレイなんだ」 「ほお」 「ウインクでもしようものなら、海が割れるんだ」 「モーゼか」 「投げキッスなんかしたら、月が落ちるんだ」 「アキラかよ」 「とっても、かわゆいんだ……」  ひらひら。政木(まさき) 辰則(たつのり)が目の前で手を振った。「だいじょ~ぶですかぁ」  ボクは、ほっ、と息をつく。他人(ひと)に好きな子のハナシをすると、その子の輪郭が鮮明になる気がする。
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