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隣の国へと向かう為、時々現れる魔物を倒しながら、森の中を進む
「ここ1年で、少し人里離れると、すぐにこうして魔物に遭遇するようになったな」
「まあ、お陰で俺はこうして、少しずつ実戦しながら強くなれてるわけだけど」
ウリアンが、ふ~むと腕を組み、
「たしかにな。もう魔物を前にしても全く震える事もないし、だいぶ実戦慣れしてきたな」
「震えるとか言うな。誰だって初めての時は怖いだろ?」
「ん?ああ、いや。別に馬鹿にしたわけじゃない。俺だって初めて魔物に遭遇した時は震えたさ。なにしろ、伝説の生き物だと思ってたしな。小さくたって、どんな攻撃をしてくるのかわからないんだから。それを思うと、俺もお前も逞しくなったもんだ」
確かに、度胸もついたし、戦い方っていうものも、少しずつわかってきた
「ねぇ、ウリアン。父さんとウリアンは、どっちが強かったの?」
「ははっ。そんなの、兄さんに決まってるだろ?」
「へぇ?そんなに力の差があったの?俺、2人が稽古してるの見てたけど、どっちが強いかなんて分かんなかった」
ウリアンが家を訪ねて来ると、必ず父さんは剣を合わせていた
「そうだなぁ…。俺と兄さんじゃ、そもそもの素質が違うんだ。だから……。まあ、凄く簡単に例えて言うと、物心がついてすぐ剣を持たせても、兄さんは剣の振り方を知っている。けど、俺は普通だ。柄の握り方から、鞘への収め方まで教わって、それでもきっと、何度も練習しないと上手く出来ない…」
「ふ~ん?じゃあ、ウリアンは沢山努力したんだな。俺も頑張ったら、ウリアンや父さん位強くなれるかな?」
俺がそう言うと、何故だかウリアンは驚いたような顔をした後、
「ははっ。大丈夫だ。自信を持っていい。お前はちゃんと兄さんの血を引いている。しっかりと、その素質があるよ」
と、言いながら、俺の頭を優しく撫でてくれた
嬉しいけど…
「でも、母さんが言ってたよ?大切なのは、血の繋がりじゃないって」
「……ニファさんが?そんな事…言ってたのか?」
「うん…。あれは、俺がまだ4歳位だったと思うけど…」
あの日も、旅から戻ったウリアンが家に来ていて、父さんは上機嫌でウリアンとお酒を飲んでいた
俺はいつも2人の仲良さそうにしているのが羨ましくて、母さんに言ったんだ
「ねぇ、母さん。俺も弟が欲しい」
少し驚いた母さんは、
「そうね。それはお母さんも楽しいと思うわ。でもね、大切なのは血の繋がりだけじゃないのよ?」
と言って、幸せそうに父さん達を見ていた
「よく…わかんないよ」
「カリスは、弟が欲しいの?それとも、お父さんとウリアンみたいに、仲良くなれる人に出会いたいの?」
弟が欲しいって事は、だから父さんとウリアンみたいになるって事じゃないのかな…
「少し難しかったわね?でもね、カリス。血が繋がってたら、それだけで幸せっていうわけではない事もあるし、血が繋がってなくたって、かけがえのない存在に出会える事もあるのよ?なんとなくでいいから、お母さんが言った事覚えておいてくれる?」
「うん…?でも、やっぱり弟は欲しい」
「あの時は、全然意味わかんなかったけど、今はほんの少し分かる気がする。母さんはきっと、体が丈夫じゃなかったし、俺の弟が欲しいって願いを叶える事が出来ないと思ったんだ…。だから、兄弟じゃなくたって大切に思える人に出会える事はあるんだよって、伝えたかったんだと思う。何より、父さんと母さんは血が繋がってないのに、あんなに仲良かったんだから、きっとそうなんだよね。だからさ、父さんから素質を引き継げてるなら、それは凄く嬉しいけど、きっとそういう目に見えないものより、こうやって自分で1つずつ色んな事を知って、稽古して、実戦してってのが大切なんだと思うんだ。んっしょっと」
森の中の小さな橋を渡りきる
「お前はやっぱり、兄さんとニファさんの子供だよ」
「?……そうだけど?」
俺に背を向けて前を歩くウリアンが、当たり前の事を言った
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