0人が本棚に入れています
本棚に追加
叔父じゃない?
微塵も疑わない程って…
「カリスは、知らないのか?」
「ああ。…なあ、ビオン。オッサンの話を聞いてくれるか?」
そう言ってウリアンが、話し出した
タッド・グラディアートルに出会ったのは、俺が6歳になった日だった
物心ついた頃、既に母親は居なくて、俺はクソみたいな親父に育てられた
ふらっと出て行っては、2~3日帰って来ず、見てくれだけはいい親父が、金を握って帰って来ては、酒と僅かな食い物に使い、あっという間に金がなくなると、また出て行った
俺は幼い頃から、人や店から物を盗む事と、まだ食えそうな物が捨てられている場所を覚えた
全く自慢じゃないが、6歳になった頃には、なんとかその日食べる分は確保出来る程の、盗みのスキルを手に入れていた
その日俺は、酔っぱらって帰って来た親父が握り締めていた中から、僅かな金を持って、いつも通り僅かな食い物を買い、明日以降の為の盗みをして帰路に着こうとしていた
ところが、ある旅人の親子に見抜かれ、黙っててやるから道案内しろと言われる
それが、タッド
つまりカリスの親父と、その親であるオーティスとの出会いだった
今考えても、よくあんな小汚ないクソガキに声をかけたなと思うよ
俺はほんの短い時間、タッド達と共に居る事で、今まで知らなかった色んな事を知る事になる
何が何だかわからないまま家に帰ると…親父が死んでいた
別に悲しいとか、寂しいとかいう感情は湧かなかった
ただ、その状況をどうする事も出来ない程ガキだった
結局色々あって、オーティスに全て片付けてもらう事となった
俺にとって親父の死は、僅かな金が入らなくなるって事と、機嫌次第で怯えずに済むって事位にしか感じてなかった
だから、これからも、たいして変わらない日々が続いていくと思っていたんだ
ところがあの親子は、俺を旅に誘って来た
旅とはどんなものなのか、この親子がどんな目的で何をしながら旅をしているのか、まるで知らなかったが、その土地になんの未練もなかった俺は旅に出る事にした
俺は旅を始めて、人としての普通の暮らし、人との関わり、一般常識…色んな事を知っていった
そして、タッド達の旅の目的が、スピロの意思を継ぎ、剣の腕を磨き、各地で情報を集め、旅を知る為だと知った
オーティスが、スリロスを読み聞かせてくれた日、俺は興奮して眠れなかった
本にまで記されるような、偉大な伝説の者の末裔が、今自分と共に旅をしている
俺は会う人皆に自慢してやりたいくらいだったが、そんな目的を持ってると言うのに、あの親子は出会った人達に、まるでそんな話はしなかった
ある時俺は聞いたんだ
何故、偉大なスピロの末裔であると言わないのか?言ったらもっと、特別な待遇をされるのではないか?と
するとオーティスは、
「そうだなぁ…。じゃあウリアン。あそこに物を広げている露店商を見ろ。お前があの店に行った時、あの店の者が商品について、『これはかつて、この国最強と言われた名君が付けてたとされる指輪だ』そう言って、古くさい本を出し、『これを見ろ。ここに書かれてある指輪がこれなのだ』そう言ってきたらどう思う?」
そう聞いてきた
俺は、そんな胡散臭い話信じないと言うと、
「そういう事だ。今、目の前にある事が大切なんだ。それが、自分の祖先に関する事だって同じだ。俺達は今、自分達がした事でのみ感謝されればいいんだ。それで十分だろ?」
そう言って笑っていた
まったく…
その精神は、ご存知の通りカリスにまで受け継がれているよ
旅を始めて1年が経った日
タッド達は俺の、生まれて始めての誕生日祝いをしてくれた
そしてオーティスが言ったんだ
「なあ、ウリアン。こいつはな、ずっと兄弟を欲しがってたんだ。どうだ?ちょうどお前はタッドの1つ下だし、このままタッドの弟として俺達と家族にならないか?」
「じゃあ、これから俺はウリアンの兄さんだ!」
その日から俺は2つ目の…最高に暖かい家族を手に入れた
タッドもオーティスも、本当の親子の様に接してくれた
タッドと喧嘩した時は2人してオーティスに叱られたし、何かをタッドに優先させるという事もなければ、グラディアートルの末裔でも何でもない俺にも、タッドと同じように剣の稽古をしてくれたんだ
「なあビオン。2人の本心や、俺の知らない所での2人の事なんて知らない。けれども2人共、死ぬまで一貫して俺を本物の家族として接してくれたんだ。だから、俺が勝手にそれを壊す事は出来ないんだよ」
そう言って、とても嬉しそうにウリアンは微笑んだ
「そうか…。別に、俺にとってはどっちでもいい話だから関係ない。それより、そろそろ休め」
「ああ、そうだな。……ビオン、世界は広いぞ」
そう言ってウリアンは再び眠りについた
最初のコメントを投稿しよう!