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頭がガンガンする。手も痛いし、お尻も痛い。ついでに、ほっぺがとても冷たい。
何か、ひんやりとしたものの上に、横向きになって寝ているような。
「!?」
私はぎょっとして顔を上げた。明らかに自室のベッドではない。つるりとした、冷たい真っ白なタイルの上で寝ている。体を確認してみれば、着ているのはお気に入りのピンクのスカートとワイシャツだった。記憶にある最後――繁華街で歩いていた時と、そのまま同じ服装である。
足には黒いパンプスに肌色のタイツ。それも、記憶にある通りのままだ。問題は。
「ちょ、ちょっと……ここなに!?何よこれ!?」
思わず抗議の声を上げていた。そこは、四角く手真っ白な部屋だったからである。天井も、壁も、床も真っ白。出入口らしきドアはどこにも見当たらない。強いていうならば、天井の四隅に監視カメラらしきものがあることと、謎の紙が置かれた小さな四角い机がぽつんと置かれている程度だ。
広さは八畳間くらい、だろうか。窓もないので、閉塞感があって息苦しい。天井は高いようで、長身の私が立ち上がっても頭がつくことはなかったが。
――このままじゃ、空気がなくなるんじゃ。
背筋を冷たい汗が流れた。冗談じゃない。どうやら自分は誰かに拉致されてこの部屋に投げ込まれたようだが――何も悪いことなんてしていないのに、どうしてこんなわけのわからない部屋で殺されなければいけないのか。
誰かに放り込まれたなら、どこかに出口があるはずである。あるいは、誘拐犯が目的を達成すれば出られるのかもしれない。ひとまず私は、机の上に置かれた紙を読むことにしたのだった。
それは、いわゆる小学校や中学校の教室で使いそうな茶色の机だった。コピー用紙っぽい長方形の紙はつるりとした天板の上に貼り付けられているらしい。横にはボールペンのようなものも置かれている。
『本島彩奈様』
紙には、私の名前とともに以下のようなメッセージが記されていた。
『彩奈様は、この国で新たに可決された“不要人物処分法”に則ってこちらにお越しいただきました。
簡単なアンケートに正直に答えていただければ、ミッションはクリアとなります。
以下で記載する人物の中から、貴女が“消してもいい”と思う人物と、その理由をご記載ください。チェックを入れた人物は不要人物として実際に消すことを検討致します。慎重にご選択ください。
①自分
②貴女の夫
③貴女の息子
④貴女の母親
⑤②~④全員
⑥①~④全員』
なんじゃこりゃ、と思う。どうして、こんな質問に答えなければいけないのだろう。
そもそも不要人物処分法、なんて法律見たことも聞いたこともない。ニュースにもなっていなかったはずだ――とまあ、自分はあまりニュースをちゃんと見ないので、見落としている可能性はあるのかもしれないが。
――なんで無理やり私を連れて来た誘拐犯なんかの想い通りにならないといけないのよ!
腹立たしいったらない。
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