タブラ・ラサ - 涙を捨てた僕ら -

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「おつかれさまです!」 「おう、おつかれ」  まだ誰もいない体育館で早くから自主練をしている先輩がいた。時丸先輩だ。  時丸先輩は3年で、身長も低く体も小さい。それでも誰よりも試合中に走るし、部活前と後の自主練も怠らない。努力でレギュラーの座をつかみとった、僕の憧れの先輩だった。 「大会、がんばってください」 「うん、ありがとう。がんばるよ」  時丸先輩のシューズが床に擦れる「キュッ、キュッ」という音が、ロッカールームにまで聞こえてくる。 (先輩、練習がんばってるなあ。僕も先輩みたいに練習したらレギュラーになれるかな) 「でも矢知(やち)がいるからなあ……」  矢知というのは同じ1年生の生徒で、身長が180cm近くあり、バスケの経験もある。将来のエース候補だ。 「ううん、あきらめるにはまだ早いな」  僕は首を大きく横にふって、靴ひもを結んだ。
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