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「おつかれさまでした!」
部活が終わったあと、いつもなら残って練習をしている時丸先輩の姿がない。
心配になってロッカールームへ向かうと、すでに制服に着替えて帰ろうとしていた。
「あの、時丸先輩。もう帰っちゃうんですか?」
「うん。もう練習をしても意味ないし、時間がもったいないから」
「でもレギュラーじゃなくなっても、控え選手だって試合に出られるチャンスはあるじゃないですか。時丸先輩ならスーパーサブ的な役割だって活躍できます」
「うちのメンバーにスーパーサブはもういるんだ。僕にコートの上で求められてきた役割はもう無くなった。大丈夫、部活をやめたりはしないから」
「でも……、あんなに練習してたのに」
「そうだね、もったいないね。でもどうすることもできない。切り替えて前を向くしかない」
時丸先輩は霞のような瞳で、遠いところを見るように言った。涙を封印した人間は時々みんなこんな顔になる。
「じゃあ僕は行くよ。一緒にレギュラー陣のサポート頑張ろう」
手を振ってロッカールームを出ていく時丸先輩の背中は、特にいつもと変わらなかった。僕はその姿に胸の奥に引っかかるような、もやもやした気持ちを感じていた。
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