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 憂紀(ゆき)の首から手を離すと、彼女のきゃしゃな身体は、床にくずれおちた。 (やはりな)  と思いつつ、おれは窓に寄った。  日が暮れ、かすかに残る明るみのなか、雪が間断(かんだん)なく落ちてくる。窓から見える裏手の通りには、人影はなかった。いつもは黒いアスファルトが、ほのかに白く化粧されている。 「おい、いつまでそうしているんだ?」  窓のほうを向いたまま、おれは問いかけた。  背後で、身じろぎする気配があった。  きぬずれの音。  靴下で床をこすって歩く音。  やがて、おれのとなりに、憂紀が立った。  ()めあげた首は変形し、頭が少し傾いている。  憂紀はそのいびつな身体のまま、おれのほうを見あげて、ニッと笑った。  おれは憂紀のほうに向きなおると、制服のブレザーをはぎとった。白いブラウスの前ボタンを、ひきちぎるようにはずしていく。  憂紀は抵抗せずに、つっ立っている。  ブラウスも脱がせた。脇から手を入れ、ホックをはずして、ブラジャーを取る。薄い、未熟な乳房がむき出しになる。  その乳房のすぐ上のところで、肌が横一直線に裂けた。裂け目は、左右の脇近くまで広がった。  裂け目の奥から、白い歯の並びと、真っ赤な粘膜が現れた。  それは大きな口だった。 「やはりな。首の締め具合から、おれと同じ種族だと思ったよ」 「ふうん、あたしのほうは、見ただけで、一発でわかったのにな」 「そうか。すまんな。……おい、おれの子を産んでくれるか?」 「もちろん」  憂紀の胸の口がうごめき、よだれのような粘液を端からたらした。笑っているのだった。  おれは憂紀の肩をだきしめた。 「おれたちの子は、長い時間をかけて、この世界を席巻するだろう。なにしろ、食料はいくらでもあるんだからな」 「そうね」  憂紀がおれのほうに体を預けてくる。  おれは欲情した。このまま、ベッドインといこう。  いつかふたりが年老いて、過去をふり返るとき、すべてはこの雪の日に始まったのだと思い出すことだろう。  雪は音もなくふり続いている。                              〈了〉
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