0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
4
憂紀の首から手を離すと、彼女のきゃしゃな身体は、床にくずれおちた。
(やはりな)
と思いつつ、おれは窓に寄った。
日が暮れ、かすかに残る明るみのなか、雪が間断なく落ちてくる。窓から見える裏手の通りには、人影はなかった。いつもは黒いアスファルトが、ほのかに白く化粧されている。
「おい、いつまでそうしているんだ?」
窓のほうを向いたまま、おれは問いかけた。
背後で、身じろぎする気配があった。
きぬずれの音。
靴下で床をこすって歩く音。
やがて、おれのとなりに、憂紀が立った。
締めあげた首は変形し、頭が少し傾いている。
憂紀はそのいびつな身体のまま、おれのほうを見あげて、ニッと笑った。
おれは憂紀のほうに向きなおると、制服のブレザーをはぎとった。白いブラウスの前ボタンを、ひきちぎるようにはずしていく。
憂紀は抵抗せずに、つっ立っている。
ブラウスも脱がせた。脇から手を入れ、ホックをはずして、ブラジャーを取る。薄い、未熟な乳房がむき出しになる。
その乳房のすぐ上のところで、肌が横一直線に裂けた。裂け目は、左右の脇近くまで広がった。
裂け目の奥から、白い歯の並びと、真っ赤な粘膜が現れた。
それは大きな口だった。
「やはりな。首の締め具合から、おれと同じ種族だと思ったよ」
「ふうん、あたしのほうは、見ただけで、一発でわかったのにな」
「そうか。すまんな。……おい、おれの子を産んでくれるか?」
「もちろん」
憂紀の胸の口がうごめき、よだれのような粘液を端からたらした。笑っているのだった。
おれは憂紀の肩をだきしめた。
「おれたちの子は、長い時間をかけて、この世界を席巻するだろう。なにしろ、食料はいくらでもあるんだからな」
「そうね」
憂紀がおれのほうに体を預けてくる。
おれは欲情した。このまま、ベッドインといこう。
いつかふたりが年老いて、過去をふり返るとき、すべてはこの雪の日に始まったのだと思い出すことだろう。
雪は音もなくふり続いている。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!