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耳鳴りがしていた、光りはない。
その理由が今まで聞いたこともない轟音を耳にしたためと、気づいた時には身動きが取れなくなっていた。
全身を強打した痛みと、何かに押しつぶされる傷みとで気が遠くなる。
一体何が起こったのかと、考える余裕もないまま意識は遠退いた。
白銀雪羽は進学予定の大学へ入学金を振り込んだ後、隣県で墓参りをしたところだった。
奨学金の手続きや入寮の申し込みも終え、残すは卒業を待つばかりというこの時期。
あてにならない母など放り、さっさと独り立ちするのだ。
最近の雪羽にはその目標だけを心の拠り所に、唯一の肉親である母も故郷も、どうでもよいと思っていた。
境遇を恨んだこと数知れず。
とはいえ実際こうして死の淵に立たされてみれば、あるいは生に縋るのではないか。
まだ生きたい、まだまだやりたいことはある。
そんな後悔に苛まれるような気もしたのだが、実際はどうだろう。
やっと死ねるという安堵が勝る雪羽には、一人の時間が長過ぎたのかもしれなかった。
生きていても、息をしているだけだった。
高校に通いバイトをし、頼りにならない母など亡き者と思い日々を過ごす。
雪羽の身を案じてくれる団体もあったが、下手に生活保護の申請などをして通った暁には、その微々たる収入すらも母のポケットに入るだろう。
それが予期できたからこそ、敢えて助けは求めなかった。
自分を殺し、ただ呼吸するだけだった。
死のうと思ったのは一度だけ、真面目に検討して止めた。
馬鹿みたいだからだ。
娘がいなくなったところで、母は喜びこそすれど悼むことはない。
悲しみに伏した演技はするかもしれないが、胸中高笑いのはずだ。
常に雪羽を邪魔者扱い。
貴女がいなければ、貴女さえ生まれてこなければ。
顔を合わせるたび娘の存在を否定し続けた母。
その癖ちゃっかり多額の保険金を、娘に掛けていた母。
そんな家庭環境で、よくも真面に育ったなと、雪羽は自身に驚いている。
死んだところで迷惑がかかる。
母は気づいてくれないだろうが、となると隣人が初めて異変に気づくことになる。
その頃にはもう穴という穴から体液が漏れだし腐敗して、異臭が発生し、見るも無残な姿だろう。
死んだ後でどう見られようと、死んでしまえば関係ない。
もうこの世に存在しないのだから、後始末など気にする必要はないのかもしれない。
とはいえ、それを処理する人は?
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