1話 新生活の始まり

1/4
前へ
/4ページ
次へ
 暖かな日差しの中、知らない街をのんびりと歩いていく。地元のような春の匂いはあまりしないが、それでも穏やかな空気が心地よい。 ようやく引っ越しの荷解き作業が一段落して少し肩の荷が下りた僕は、散歩がてら周辺をゆっくり見て回ろうと思いつき、サンダルを履いてドアを開けた。   アパートを出て住宅街から駅の方へと向かっていく。いくつか信号を渡ると商店街があるのだがシャッターの閉まった店も多く、あまり活気が感じられないため寂しい。それでもいくつかの食べ物屋さんはやっているようなので、機会があれば寄ってみようかとドア越しに店内の様子を覗いたりする。行きつけの店、という響きに少し憧れている僕だが、この辺はまだ敷居が高いかもしれない。でもせっかくの一人暮らしなのだ。今度挑戦してみようと思いつつ商店街を抜けていった。  駅は最近建て直したように小奇麗で、小さいながらも住宅の多い地にあるため利用者は多い。また三つ隣りの駅は複数の路線が交わるので乗り換えで良く利用することになりそうだ。ちなみにその駅はよくテレビでも紹介される観光地でもある。僕も大学に通う際は乗り換えでお世話になるし、もう少し落ち着いたら色々散策しつつ実家にお土産でも送ってあげよう、なんて考えながら駅前をぶらついた。    駅前の自販機で買った缶コーヒーを飲んで一休みした僕は、駅のロータリーを回る形でほぼ直角に曲がり道を進んだ。  しばらく行くと路上駐車と多くの人の列が目立ってきた。仕方なく流れに乗って進んでいくと大きな橋があり、橋の上には大きなカメラで写真を撮る人がいたり、橋横の脇道に沢山の人が入っていった。僕は脇道には入らずに橋を渡ってカメラが向いている方を覗いてみると、幅の小さな川に沿って遊歩道があり、その道脇には菜の花が揺れ、さらに土手の上は桜が綺麗に並んで咲いていた。最近テレビなんかでよく見るような、黄色とピンク、そして青空のコントラストがとても綺麗に映えていた。僕としては土手に並ぶ人達が少なければ尚良しだったけど、皆思い思いにお花見を楽しんでいた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加