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アパートに隣接する一軒家に大家さんが住んでいる。呼び鈴を押すと、奥から「はーい」という声が聞こえ、少しして引き戸が開くと背の低いパーマがかった白髪のおばあさんが笑顔で迎えてくれた。
「あらあら、野村さん。どうしたの?」
「こんにちは大家さん。実は・・・」
僕が事情を話すと大家さんは笑って言った。
「あなたも律儀な方ねえ。じゃあそれは預かっておくから、皆には今度渡しておくわ」
ギフトの入った紙袋を手渡しながら何度もお辞儀する僕を、ニコニコと変わらぬ笑顔で見つめた大家さんは、
「ちょっと待っててね」
と声を掛けて奥へと入っていった。少しの時間待っていると、
「これ持って行って」
ビニール袋に入った何かを僕に渡した。お辞儀をしつつ袋を開けてみると、中にはたくさんの蜜柑が入っていて甘い香りがした。
「この前安売りしててね、段ボールで買っちゃったのよ」
食べきれないからおすそ分け、と言って大家さんは笑った。
そんな田舎を思い出すような言葉とやりとりに胸が温かくなった僕は
「ああ、ここでも頑張っていけそうだ」
なんて、根拠はないけど確かな気持ちを抱くのだった。
第1話 完
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