2話 暖かな日差しと温もり

2/5
前へ
/5ページ
次へ
「おう、ただいま」  友人と将棋を指しに出掛けていた夫が、玄関脇から庭に顔を出して帰宅を告げた。 「お帰りなさい」  私も一段落していたので、庭いじりを終えて家へと入る。軍手を脱いで手を洗い、台所で薬缶を火にかける。そして夫を探して居間を覗いてみると、窓際にある、いつもの椅子に座って本を読んでいた。 「おじいさんも、お茶いかがですか?」 老眼鏡の上から上目遣いで私を視認して、「頼む」と呟いて視線を本へと戻した。私はまた台所へと踵を返して、薬缶を見つめてお湯が沸くのを待つ。数年前から火を付けている時には別の作業をしないように気を付けている。一度鍋に火を付けたまま居間でテレビを見ていて、鍋の存在をど忘れしてしまい焦がしてしまった経験があった。幸い火事にならずに済んだが、それ以来気をつけていた。  お湯が沸いたら火を止めて、少しだけ冷ましてから急須でお茶を淹れる。夫も私も猫舌なので飲みやすくするためなのだが、娘には「こだわってるね」と良く言われた。  湯呑とお煎餅をお盆に乗せて居間に入る。夫は本に栞を挟んで眼鏡を外し、腰を上げた。いつの間にか夫の足元で丸くなっていた飼い猫のノエルも伸びをして起き上がっている。私達は窓を開けて庭に面した縁側へと腰掛けた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加