2話 暖かな日差しと温もり

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 あんなに寒かった冬がいつの間にか過ぎ去って、外の空気が柔らかく感じる。庭の隅で私は日差しを受けながら、しゃがみ込んで花の手入れをしていた。庭には一本の梅が植えられており、その横には小さなガーデニングのスペースがある。梅はついこの前まで白い小さな花を咲かせていたが、今はその花びらを散らして濃紅の軸を残すだけになり緑をつける準備をしている。そんな梅の木の脇で、私は土の香りを楽しみながら雑草を抜いていく。その花壇にはネモフィラの青く可愛い花がたくさん顔をのぞかせ、私に語り掛けるように咲いている。 「いつもありがとう」 「こちらこそ、綺麗に咲いてくれてありがとう」 そんな会話を頭の中で楽しんで作業をする。すると塀の外から 「こんにちは。大家さん」 と若い男性の声がした。顔を上げると、先月から家のアパートに住んでいる大学生がこちらを覗いてお辞儀していた。今時としては珍しくしっかりした子で、私達夫婦もその子が入居してからは気にかけて何かと話かけていた。余計なお世話かもしれないお節介を、嫌な顔もせずに喜んでくれるその男の子が私達は好きになっていた。 「こんにちは。野村さんはこれから学校?」 「はい。やっと講義が始まって、大学生になったんだなって実感してます」 「そう、頑張ってね」 笑ってまたお辞儀をしてから彼は歩いていった。ふふっと私も微笑んで、再びしゃがみこんで土いじりを再開した。
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