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『――園田アナ、最近ちょっと綺麗になったんじゃないの? なんかいいことあった?』 『やだなあ、そんなことないですよ~。なに言ってるんですか、もう』 『板六さん、それセクハラ』 『あ、そうか。悪い悪い、ハハハ。最近はいろいろ五月蠅いからねェ』 ハハハ、と遠くから聞こえる取り繕われた笑い声に引っ張られるように、俺――笹谷圭祐は目を覚ました。 真っ白な天井。視界がはっきりとするにつれて、窓の外の音も聞こえてくる。 約2か月前、社会人になったと同時に越してきたこのアパート付近は、ファミリー向けマンションも多いエリアで、公園が近くにある。まだ朝早い時間だろうに、遠くに子供の笑い声が聞こえた。 『次、お天気コーナーいきますよ! スタジオ前の杏里ちゃ~ん?』 『はーい! みなさん、おはようございます。6月21日土曜日、今日は全国的に強い日差しが照り付け、梅雨の晴れ間となるところが多いでしょう』 6月21日、土曜日。ぼんやりする頭の中で、ゆっくりとその日付を繰り返した。 俺にとってのXデーといっていい、この日が来てしまった。 『九州では最高気温が35度くらいまで上がり……』 可愛すぎるお天気お姉さんと評判のアナウンサーの声を右から左に流しながら、ふたたび瞼を閉じる。そのまましばらく、身体の感覚を探る。 ――昨日はどうやって眠りについたっけ? 大きく息を吸い、そのまま右手で頭の近くにあるはずの携帯電話を探す。だが目的のそれは見つからなくて、俺は仕方なく上体を起こした。 そのまま背中を丸め、思いっきり顔を下げる。うなじに手をあてて上下左右に数回動かしてみる。 ああ、やっぱり頭痛だ。 昨日は帰宅後、強めの酒を一人あおっていた。テレビも電気もつけっぱなし。そのまま眠りについてしまったらしい。 世に言うヤケ酒、と言っていい。 6月中旬、梅雨の晴れ間。この限りなく祝福されているというべき快晴の今日、俺は、篠田祥子――10数年来の幼馴染であり、拗らせに拗らせた片思いの相手の結婚式に参加する。
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