伍 神話舞

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顔を上げる。目が合った。私を見下ろすいつも通りの冷静な目だ。 「恵衣、くん……」 「さっさと立て」 手を取るよりも先に掴まれた。引っ張られるように立ち上がる。 手を離した恵衣くんはスタスタと舞台に戻っていく。つられるように足が前に進んだ。その背中を追いかけているうちに舞台の隅にたどり着く。 しれっと列に交じった恵衣くんの隣に並ぶ。みんなの視線が痛いほどに突き刺さり、また頭がスルスルと下を向く。その時。 「やましい事がないなら胸張ってろ」 前を向いたまま恵衣くんが小さくつぶやく。 その瞬間、無性に泣きたくなった。 恵衣くんはムスッとした顔で「見てるこっちがイライラする」と付け足す。泣きそうだったはずなのに、思わずぷっと吹き出した。 どうしてこの人は、そんな言い方しか出来ないんだろう。 でもそのおかげで、前を向けそうな気がする。 息を吐いて前を見る。心臓がばくばくとうるさい。 相変わらず私に向けられる視線は厳しく、身体中に突き刺さるような心地だった。 掴まれた右の手首に残る熱を背中の後ろで確かめる。 そうすると向けられた敵意も少しは怖くなくなる気がした。
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