伍 雨と傘

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まねきの社の庭園まで歩いてきた。雨が降っているおかげで人気はない。近くにあった松の木の根元に座って、膝に顔を埋めた。 気にするな、と言われて「うん、そうだね。気にしない」と気持ちを切り替えれる性格ならどれほど良かったか。 廊下を歩けば聞こえてくる嘲笑、広間でご飯を食べていれば耳に入る悪意に満ちた噂話。 聞こえないふりなんてできるわけが無い。考えないようになんて、気にしないようになんてできるわけがない。 前例のない飛び級合格、それもこの世界に来て一年しか立っていないこの私が。 私ですら未だにどうして一級を貰えたのかは分からないくらいなんだから、皆が不正やコネを疑うのは無理もない。 だから、信じてもらえないなら認めてもらえるように頑張ろうと思った。そのために寝る間も惜しんで努力したし、できる限りのことを精一杯頑張った。 それでも皆が私を見る目は変わらなかった。どれだけ努力しても無駄だった。 どうしてこうなってしまったんだろう? 私は何か間違ったことをしたんだろうか。悪いことをしたんだろうか。 昇階位試験で私を直階一級にしたのは本庁で、神話舞に選んだのは喧鵲禰宜だ。ズルも不正もコネもない。その時に私ができる最大限のことをしただけだ。 じゃあ私はどうすればいいの? 皆は私がどうなれば嘲笑って無視して、後ろ指を指すのを止めてくれる? 神話舞を降りれば納得する? 私から直階一級を取り上げてくださいと本庁にお願いすれば納得する? そうしたら、前みたいに笑ってくれる?
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