序 春休みと禊

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「じゃあな巫寿(みこと)、また連絡するから!」 「うん! またね!」 迎門の面を身に付けた私たちは鬼門(きもん)を通り鬼脈(きみゃく)の中へ入ると、少しだけ立ち話をして別れを惜しんだあと手を振り各々の帰路についた。 今日は三学期の修了祭の日。高等部一年生の学校生活が終わり、つかの間の休息である春休みが始まる。 期間は2週間程度しかないけれど、宿題がない分たくさん遊べる。恵衣ちゃんとは最近こまめに連絡を取り合っているので、春休みの約束もバッチリだ。 聞いて欲しい話もあるし、聞きたい話も沢山ある。久しぶりにお兄ちゃんと二人きりでゆっくりする話す時間も取れそうだ。 そういえば昇階位試験の結果もまだ連絡できていなかった。試験の前日にしつこいくらいにメッセージアプリに連絡が来て、そこから全てのメッセージを無視していた。 人と妖で賑わう大通りを抜けて、家の近所にある"ゆいもりの社"の鬼門(とりい)が見えてきた。 あそこをくぐれば現世(うつしよ)に出られる。 たまらず駆け出すと鳥居のそばに一人の男性が立っているのに気づいた。長髪の黒髪に、髭を生やしたおじさんだ。 白い白衣(はくえ)に高位の神職であることを示す真っ白な袴が風に靡く。 足音に気が付いたのかパッと顔を上げた。私と目が合うなり目を弓なりにして目尻の皺を深める。 小さく片手をあげたその人に、満面の笑みを浮かべた。
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