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食べ終わると食器を下げてくれた彼はおとなしく髪を乾かしに行った
「絆創膏貰った」
戻ってきた時には左手の薬指に絆創膏が巻かれていた
「どうかした?」
「いや、ちょっと」
「引っ越したばかりだから薬がないの」
「いや、引っ掻いただけだから薬はいらない」
「そう?」
「それより」
「ん?」
「オネエサン引っ越したばかりなの?」
「一昨日入居したばかり」
「それまでは何処に?」
「えっと、西の街」
「へぇ(それでか)」
「ん?」
「ううん。なんでもない」
何かを誤魔化したような彼はソファの上に畳まれた毛布を見て眉を下げた
「オネエサンごめん。身体辛くない?」
「こう見えて丈夫だから気にしないで」
「じゃあ。ありがと」
「うん。どういたしまして」
一見すると無表情な彼も、よく観察すれば眉を上げたり下げたり表情豊か
昨日は見えなかったけれど、サラサラの前髪に分け目ができていて
美少年だということが分かった
・・・あのまま道端に座っていたら誘拐されてたかもしれない
・・・いや、もしかして私が誘拐犯?
顔を見ながらぶつぶつ言う私に
「オネエサン」
「・・・っ、ん?」
彼は訝しげに目を細めた
「名前」
「ん?」
「オネエサンの名前」
「えっと杏珠っていうの」
「ふーん」
聞いた割に反応の薄さに戸惑う
「んで、君は」
その戸惑いを隠すように返した
「オネエサンの好きに呼んで良いよ」
「・・・どういうこと?」
「自分の名前が嫌いだから」
ハッキリしているのか、それとも言いたくないだけか不可解なことを言う
とは思ったけれど
どうせ熱が下がるまでの間の縁なら、追求しなくても良いかもと思い直した
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