シーズン1

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 仕事の休憩時間は、SNSで発信するための情報収集に充てている。SNSは『五十嵐室長はテクニシャン』を広める目的でしているが、小説の宣伝ばかりしていても、だれも凡子の投稿を読んでくれない。そのため、フォロワーを増やすための努力をしている。会社の同僚たちから、丸の内のオフィス街で食べられるおしゃれなランチと、美容の情報を集めて、発信している。SNSでのテーマは『五十嵐室長にお似合いの良い女風』だ。リアリティをもたすために、発信する内容は、調べに調べ尽くしている。  そして休みの日には、五十嵐室長の二次創作に精を出す。ほかにも、中途半端な画力ではあるがファンアートも描く。  休日に五十嵐室長を堪能したあと迎える月曜日。多くのサラリーマンにとって憂鬱な曜日ではあるが、凡子にとっては週の中で一番幸せを味わえる特別な日だ。  朝には『五十嵐室長はテクニシャン』が更新される上に、『蓮水監査部長』が、本社に出勤するからだ。蓮水監査部長は、『五十嵐室長』が実在したら、きっと彼のような容姿をしていると思えるほど、眉目秀麗なのだ。年の頃もちょうど同じくらいの三十代前半で、細身で長身なところも、クールな雰囲気を漂わしているところも、イメージ通りだ。  凡子の世界は、五十嵐室長を中心に回っている。
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