シーズン1

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 脳内で「五十嵐様が目の前に!!」と、半パニックになっているところに「社員証を忘れたのでセキュリティカードの貸出をお願いしたい」と言われた。 ――お声まで、五十嵐様のイメージにピッタリだなんて。この方は『生き神様』に違いない。  凡子は精一杯取り繕って「今、申請書をお出ししますので、お待ちください」と、言葉にした。緊張したせいで、必要以上に事務的になってしまったのを覚えている。 「君は新人だから、私のことを知らないのかな?」  蓮水監査部長が口元に笑みを浮かべた。凡子は「五十嵐様の笑顔いただきました!」と叫びたい気持ちを必死で抑えながら「存じ上げております」と返した。 「それならば」と手を差し出され、凡子は、申請書を手渡した。  蓮水監査部長は申請書をすぐ脇に置き、もう一度手を差し出してきた。凡子は戸惑いながら、次にボールペンを渡した。 「私に記入しろと?」 「はい、規則ですのでご記入ください」  蓮水監査部長は「規則なのであれば、仕方ありませんね」と言って、申請書を記入した。  凡子は、端末で照合などを行い、セキュリティカードを手渡した。 「お帰りの際には、ご返却をお願いいたします」  「ありがとう」  最後にも微笑みを見ることができたので、凡子は嬉しくてつい、満面の笑みを返してしまった。
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