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「えー? いやさぁ。俺も一旦はいつも通り帰ったんだぜ?」
しかし、残念ながらこの能天気馬鹿には嫌味が一切合切通じない。
オフィーリアが念を込めて「消え去れ」と放った言葉も華麗にスルーして、そこら辺の女性なら至極簡単に魅了出来そうな笑みを浮かべながら続けた。
「でも今日ちょっと、帰ったらシスターに振られちゃって」
「へぇ。やっと目覚めたんやな、セイントも」
……とうとう振られたか、とか少しばかり気の毒に思いつつも、その点においては素晴らしく興味がわかないため、半ば棒読みとなってしまう。
「何か母さんと一日デートするからシュバリエは要らないって言われちゃった」
と、無邪気に言ってはいるが、かなり酷い扱いを受けているのではなかろうかと、ちらりと見たオフィーリアは返す。
「ほんならカッツェ兄ちゃんかソレイユか、フェンリルに相手してもらえや」
「あ、あの三人にも振られた。だから今日は俺、フリーなの。それで暇だから戻ってきたんだよ」
それで暇だから戻ってくるなや、とは思ったが、反論するより先に盛大な舌打ちをしてしまう。
そうしてしばらくはその場に立ち尽くしていたのだが、やがてこうしていても埒が明かないと判断して、キッチンに完全に入ってから後ろ手でドアを閉め、真ん中に設置されているテーブルの脇にある椅子に座った。
「で? 何や用事? 因みに俺は自分に用事なんぞ微塵もあらへんけど」
「トウジ君から一部始終聞いてるんだよ。フィーってばまだしばらくフリーなんだろ? 今日は一緒に遊ぼうぜ。俺、行きたいところがあってさぁ」
それで気に入らないようにぴくりと片眉を上げたオフィーリアだったが、シュバリエからの「遊ぼうぜ」という言葉には取り合わず、今しがた名前が挙がった張本人がどこにもいない事に気がついてしまう。
そう言えば、ルフィナの姿も見えない。
割と遅く起きたとはいえ、こんな朝から一体どこへ行ったのか、今更ながら心配になってきた。
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