あまからしょっぱ

2/133
前へ
/133ページ
次へ
「新入生を代表して、1年A組山口亜斗矛…」 まだ声変わりをしていない柔らかな声。 ふわふわのクセ毛は、壇上の照明に透けている。 そして弓なりの優しい眉と、くりくりと大きな目で。 小動物のように愛らしい。 林はぼんやりと思った。 (こいつ、なんや。 キャラメルの箱に描いてある絵みたいやな) 名前を笑われたのは明白なのに。 全く動じることなく。 恥ずかしがることもなく。 教師席にも、父兄席にも笑顔を送る。 完璧な振る舞いだった。 最後にぺこりと頭を下げると。 拍手の中を席に戻って行く。 でも、林は気付いた。 頭を上げた時、あのアトム君は。 少し笑って。 確かに、林をちらりと見たのだ。 教室へ戻ると、後ろの席から背中をつつかれた。 「なあ、林くん。 どこの学校から来たん?」 「あー…オレ。家、T市やから」 「えっ!むっちゃ遠いやん。 電車2時間?」 「チャリで急行止まる駅まで行くんで。 1時間半くらいやな」 「はあ。 そんで、山口くんのコト知らんかったんか」 その話題に引かれて、他の生徒も集まって来る。 「びっくりしたで。 あんなトコで笑うんやもん」 「せやけど、さすが山口くんやんな。 全然動じんかったし」 「なんで、ココ来たんやろ? 幼稚園から鈴ケ丘やろ?」 段々盛り上がってくる。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加