あまからしょっぱ

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「新入生を代表して、1年A組山口亜斗矛…」 まだ声変わりをしていない柔らかな声。 ふわふわのクセ毛は、壇上の照明に透けている。 そして弓なりの優しい眉と、くりくりと大きな目で。 小動物のように愛らしい。 林はぼんやりと思った。 (こいつ、なんや。 キャラメルの箱に描いてある絵みたいやな) 名前を笑われたのは明白なのに。 全く動じることなく。 恥ずかしがることもなく。 教師席にも、父兄席にも笑顔を送る。 完璧な振る舞いだった。 最後にぺこりと頭を下げると。 拍手の中を席に戻って行く。 でも、林は気付いた。 頭を上げた時、あのアトム君は。 少し笑って。 確かに、林をちらりと見たのだ。 教室へ戻ると、後ろの席から背中をつつかれた。 「なあ、林くん。 どこの学校から来たん?」 「あー…オレ。家、T市やから」 「えっ!むっちゃ遠いやん。 電車2時間?」 「チャリで急行止まる駅まで行くんで。 1時間半くらいやな」 「はあ。 そんで、山口くんのコト知らんかったんか」 その話題に引かれて、他の生徒も集まって来る。 「びっくりしたで。 あんなトコで笑うんやもん」 「せやけど、さすが山口くんやんな。 全然動じんかったし」 「なんで、ココ来たんやろ? 幼稚園から鈴ケ丘やろ?」 段々盛り上がってくる。
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