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2 後輩とのランチ
12:00時きっかり、席を立った。
社内食堂があるのだが、もっぱら外で食べるのがわたしの流儀だった。
エレベーターで階下へ降り、外へ。夏真っ盛りのうだるような暑さが一挙に押し寄せてくる。
「日下部さん待って!」
振り返ると、後輩が息を切らせていた。
「なにか用か。取引先からの電話だったら出んぞ」
「いつも食堂にいないなって思ってたけど、外へ食べに行ってたんですね。ついてっていい?」
「同期の仲よし三人組が欠けちまうぞ」
「いいんです。あたしあの二人本当は嫌いだもん」
「薄っぺらいね、女の友情は」
「どうせあたしは中途入社ですよーだ」
会社は都心のオフィス街にあり、ビジネスパーソンを目当てに多数の飲食店が乱立している。後輩の意向は聞かずにたぬき蕎麦屋ののれんを潜った。
店内は社会人でごった返していて、さながら関ヶ原の合戦場である。ウエイトレスのおばちゃんが光速の60パーセントですっ飛んできて、開口一番こうのたまった。「たぬき蕎麦でいいね?」
わたしが返事をする前に伝票にアラビア文字みたいなミミズののたくりを書き記し、風のように去っていった。この店でたぬき蕎麦以外のメニューを頼むのは事実上不可能なのだ。
「注文が自動的に決まっちゃった」後輩は目を丸くしている。
「心配するな。ちゃんとおいしいから」
「日下部さん、ここよく来る――」
「たぬき蕎麦お待ち!」
わたしたちは早速いただいた。
「おいしい! 日下部さん、このお蕎麦おいしいです」
「だろ。しゃべってないで早く食べろ。15分以上滞在してると白い目で見られるんだ」
「そんなあ……」
香苗は14分35秒でなんとか平らげた。
その日からたびたび、昼時の連れができるようになった。
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