群青ジレンマ、4

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 美琴と別れてもうすぐ二年が経つ。俺はずっと一緒にいたかったからそりゃ悲しかったけど、別れたと同時くらいにリトルノイズが売れ出したせいもあり、その頃から今まで、泣く暇もないくらい忙しかった。  別れてから二回、ライブハウスで美琴を見かけた。俺とは目も合わせてくれなかったが、元気そうに楽器を弾く姿を見て、俺と別れてよかったんだ。と初めて理解した。  新しいバンドメンバーと楽しそうに音楽をやっていている美琴はイキイキとしていて、俺の好きな彼女の顔をしていた。  リトルノイズにいる時のあいつは、一生懸命音楽と向き合って笑っていたけれど、ずっと息苦しそうだったから。  物心付いた時から、俺はいつも人に羨ましがられていた。俺は普通に飯食って学校行って、寝て。を繰り返しているだけなのに、気付けば崇拝され、ファンクラブを作られ、一定多数からは避けられたり、妬まれたりした。  そういう人間ならではの単純な感情、くだらね。と思っていたし、気にもしてなかったけど。  美琴にもそんな感情抱かせてたってわかった時は、キツかったな。  誰にどう思われてもどうでもいい人間だったが、あいつだけは、なんていうか。特別でいて欲しかった。  なんて。それは俺の勝手な願望か。  「『眠る月』」出てきたね〜」    俺がスタジオで弦を張り替えていると、波瑠が隣に来た。  波瑠、この二年でだいぶ成長したように感じる。今まで年上のくせに俺より精神年齢低。て思ってたけど、最近やけに大人に見える。ま、俺のほうが身長高いけどな。  「まあな」  「美琴ちゃん、ちょー頑張ってる」  「お」  「対バンすることになったりして〜」  波瑠がにやけながら俺の頬を突いてくる。やっぱり、前言は撤回する。  「やめろ、変態」  「は⁈変態ってなんだよー!」  「……。だって、変態だろ?」  「いやいやー。俺結構純粋だよ⁈」  「もういいって」  しょうもない言い合いの最中、バン!と大きな音で扉が開いた。……那月だ。相変わらず生活音うるさいな。  「おつー!」  ハイテンションな彼女のすぐ後ろから、切羽詰まったような顔をした孝則君が入ってきた。  手にはたくさん、チラシみたいなものを持っている。  「やばいぞ!この一週間で三回ライブがある!そのうちの一つは、ヒソノだ!しかもその他テレビとラジオもある!」  「うえー。マジかー。今週はゆっくり寝れると思ったのにぃ〜」  「今から鬼練だ、鬼練!」  「「毎日じゃーん」」  有名になっても、俺たちは変わらない。  
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