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美琴と別れてもうすぐ二年が経つ。俺はずっと一緒にいたかったからそりゃ悲しかったけど、別れたと同時くらいにリトルノイズが売れ出したせいもあり、その頃から今まで、泣く暇もないくらい忙しかった。
別れてから二回、ライブハウスで美琴を見かけた。俺とは目も合わせてくれなかったが、元気そうに楽器を弾く姿を見て、俺と別れてよかったんだ。と初めて理解した。
新しいバンドメンバーと楽しそうに音楽をやっていている美琴はイキイキとしていて、俺の好きな彼女の顔をしていた。
リトルノイズにいる時のあいつは、一生懸命音楽と向き合って笑っていたけれど、ずっと息苦しそうだったから。
物心付いた時から、俺はいつも人に羨ましがられていた。俺は普通に飯食って学校行って、寝て。を繰り返しているだけなのに、気付けば崇拝され、ファンクラブを作られ、一定多数からは避けられたり、妬まれたりした。
そういう人間ならではの単純な感情、くだらね。と思っていたし、気にもしてなかったけど。
美琴にもそんな感情抱かせてたってわかった時は、キツかったな。
誰にどう思われてもどうでもいい人間だったが、あいつだけは、なんていうか。特別でいて欲しかった。
なんて。それは俺の勝手な願望か。
「『眠る月』」出てきたね〜」
俺がスタジオで弦を張り替えていると、波瑠が隣に来た。
波瑠、この二年でだいぶ成長したように感じる。今まで年上のくせに俺より精神年齢低。て思ってたけど、最近やけに大人に見える。ま、俺のほうが身長高いけどな。
「まあな」
「美琴ちゃん、ちょー頑張ってる」
「お」
「対バンすることになったりして〜」
波瑠がにやけながら俺の頬を突いてくる。やっぱり、前言は撤回する。
「やめろ、変態」
「は⁈変態ってなんだよー!」
「……。だって、変態だろ?」
「いやいやー。俺結構純粋だよ⁈」
「もういいって」
しょうもない言い合いの最中、バン!と大きな音で扉が開いた。……那月だ。相変わらず生活音うるさいな。
「おつー!」
ハイテンションな彼女のすぐ後ろから、切羽詰まったような顔をした孝則君が入ってきた。
手にはたくさん、チラシみたいなものを持っている。
「やばいぞ!この一週間で三回ライブがある!そのうちの一つは、ヒソノだ!しかもその他テレビとラジオもある!」
「うえー。マジかー。今週はゆっくり寝れると思ったのにぃ〜」
「今から鬼練だ、鬼練!」
「「毎日じゃーん」」
有名になっても、俺たちは変わらない。
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