群青ジレンマ、4

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 ライブに備え、練習しまくる日々が続く中、衝撃的な話が舞い込んだ。  前の父親が、強制猥褻罪と、窃盗容疑で捕まったと。兄から訊いた。  母親は、もう関係のない人だから、大丈夫。と、何も気にしていないみたいに淡々と言った。  俺よりもたくさん関わっているだろうに、あっさりしすぎじゃね?  しかも、こんな時にも、母は出かけるらしい。昔からだ。どこへ行っているのか知らないけど、休みの日はいないことが多い。  父のこと、ずいぶんと会っていない人だし、俺も特に気にすることは無く、大丈夫だと思っていた。  けれどその日から、俺の右耳は、音が聞こえにくくなった。  そして、それはライブ終了後に起こった。右耳がほとんど聞こえなかったが、ライブはなんとか乗り切った。ステージを下りて、楽屋に戻る途中、まだ周りはガヤガヤしていて、波瑠と孝則君は知り合いのバンドと立ち話をしている。  俺もその中へ入っていこうと思ったんだけど、なんだか途中、頭がぐるぐるした。  「え⁈綿谷!」  「綿谷!!大丈夫か!」  聞き慣れた声が耳元に降ってきては、ぼんやりと遠ざかっていく。    肩に、誰かの手の感触。  孝則君、波瑠、那月。俺、ちょっと無理かも。
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