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寒さでブルリと震える目覚めだった。
昨夜は一糸纏わぬ姿で余韻の中、甘い温もりを抱きしめベッドで眠りについたはず。
それなのに、布団はどこにいったのか何もかかっておらず、仰向けで眠っていた背中にはマットレスではなく冷たい床の感触。
ベッドから落ちた? そりゃ、寒いはずだ。
夕べはしこたま飲んだけど、まさか落ちるほど酔っぱらっていたなんてな、と起き上がろうとして気付く。
身動きが、できないことに――。
ちょっと、待て。これはどういうことなんだ?
必死に目を開こうとしても開かない。
多分、目隠し? それも粘着性のものでだろう、ベタリと貼りつき、もがく度に頬の肉も引っ張られる。
両手は前で、足首も縛られているようだ。
「ミーちゃん? ミチル? これ、なんの冗談かな?」
なんとか勢いで横向きになり、肘と肩を使って起き上がろうと試んでいるとクスクスというよく知った笑い声に背筋が凍る。
「ミチルって誰のことかなあ?」
もうすぐ起き上がれる、そう思った瞬間、声の主だろう。
足の裏でオレの肩を体重をかけて踏みつけ、起き上がらせないように抑えつけている人……。
まさか……、まさかだよな?
動悸が一気に激しさを増す。
生唾をのみこみ、振り絞ったオレの声は掠れ、そして震えていた。
「……サエ……?」
「ピンポーン! どうして愛する奥さんの名前を間違っちゃうのかなあ? フミくん? 夕べのお酒、美味しかったでしょ? グッスリ眠れて良かったね。睡眠薬って本当によく効くよね」
こんなにも寒いというのに、冷たい脂汗が脇を濡らす。
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