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「京子ちゃんは巫女様の事、なんて答えたの?」
男のあの苛立ちっぷりから何も話していないだろうが、念には念だ。それに男が巫女の何を知りたがっていたのかも気になった。
「私は巫女様のことはアンドロイドだということしか知らんし、会ったこともないから、なーんも答えておらんよ」
京子ちゃんは陳列の手を止めることも俺に振り向くこともなく、素っ気なく答える。
その時頭の中で、さっきの男のいやらしい笑みが浮かんだ。
『お前がいうように、その巫女様は大事にされてるのか?』
小さな小さな社殿で一人。暗く寂しい部屋で一人。
規則に縛られ、座り込んでいる彼女が浮かぶ。
「……会ってみたい?」
「いんや。別に会わんでもええ。会ったとしてアンドロイドに何話せばええというん。感謝の言葉を言っても機械には伝わらんじゃろうて」
「そうや。そんなんいつもゴミを吸ってくれる掃除機にお礼言っとるんとおんなじや」
魚の頭を切り落とす音が耳に反響した。二人の言葉が刃になって、俺の望んだ言葉を斬りつける。
あの男の推測が、形を持って証明されていく。
「昔は雨が降らんかったり降ったりで不安定でな。今はこんなに安定しとる。どちかというと感謝は高倉様にせんといかんなぁ」
「そうやな。今度神社にお参りでもしにいくか」
店をいつ休みにするか、晴れの日に行こうか、そう二人で笑いあって神社に参拝する予定を話し合う、そんな微笑ましい光景を、巫女の話なんて忘れている二人を、俺は見ていられなかった。
天気が不安定なことは、島の外ではごく一般的だ。天気予報でさえ、次の日にはガラリと変わってることさえある。ここに住む人たちは、スケジュール通りに雨が降るこの環境を当たり前と思いすぎている。
違うんだよ。それが当然になるようにって、島のみんなのためにって、孤独を享受して涙を流してる子がいるんだよ。
俺は決意しぐっと顔を上げた。
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